苦い方が効く? 商品増える青汁 畑中三応子 食文化研究家
2022.06.13
青汁の愛飲層が広がっている。「体によいが苦くてまずい」「シニアが健康のために飲むもの」というイメージが強かったが、2017年にフルーツ青汁が大ヒットして以来、消費者の青汁に対する意識が変わった。おいしくて飲みやすい青汁が次々と開発され、パッケージがおしゃれになり、若い世代にも浸透しつつある。
青汁市場の中心は水や牛乳に溶かして飲む粉末タイプだが、そのまま飲むドリンクタイプの割合は年々増えている。野菜と果物をミキサーで混ぜ合わせた「グリーンスムージー」を含む市場規模は1000億円を超えた。
好調の要因はコロナ禍で健康意識が高まったことだ。期待される効果は野菜不足解消、腸内環境改善、免疫力アップ、美容とダイエットなど。粉末製品では、乳酸菌を配合したタイプがよく飲まれているという。
東京・六本木には都内初の青汁専門カフェがあり、ヨーグルトやフルーツと組み合わせたり、レモネード風に仕立てたりした青汁が人気だという。青汁を使ったサンドイッチやスープなどの軽食、クッキーやケーキなどスイーツ類も豊富で、青汁もずいぶん進化したものだと感心する。
ところで「まずい、もう1杯!」のCMで青汁を知った人は多いのではないだろうか。1990年から放映されたこのCMは青汁の知名度を劇的に上げた。だが、実は青汁は太平洋戦争中の食料難から生まれ、戦後すぐに実用化された、記念すべき国産栄養ドリンク第1号である。
考案したのは、大阪女子医専教授だった医師の遠藤仁郎。戦局が悪化し、どうしたら栄養が取れるか思案する日が続いたある朝、名案がひらめいたそうだ。
「草や葉っぱなら、いくらでもあるじゃないか!」
道端の山野草をゆでたり煮たりして食べることはもう普通だったが、葉を熱湯に浸してから乾燥させ、石臼で粉にして水に溶かしたのが新しい発想だった。味も悪くなく、なにより腹がふくれ、体調がよくなるのを感じたという。名づけ親は遠藤夫人で、当初の発音は「あおじる」ではなく「あおしる」だった。
戦後、赴任した倉敷中央病院では病院食に取り入れ、栄養改善に役立てた。当初はいろいろな植物の葉を使っていたが、栄養成分と栽培面でとくにすぐれたケールの種子をアメリカから取り寄せ、無農薬・無化学肥料の大量栽培に成功した。
54年に完成したケール100%の青汁を「遠藤青汁」と名づけて普及会を発足すると全国に知られるようになり、遠藤は「青汁教祖」と呼ばれ、97歳で亡くなるまで普及に努めた。
「まずい」で有名になった青汁を製造販売している会社の創業者は、脳血栓の後遺症に悩んでいたとき遠藤青汁を知り、ケールの種子を遠藤から分けてもらったのが最初の一歩だったという。遠藤は派手な宣伝は嫌い、青汁からの報酬はいっさい受け取らない「医は仁術」の見本のような人だったそうだ。
いまは原料に苦みの強いケールだけでなく、抹茶に似たまろやかな風味の大麦若葉などが使われ、ケール自体も苦くない品種が栽培されるようになった。味は大きく変わったが、個人的には良薬はなんとやらで、苦いほうが効きそうな気がする。
(Kyodo Weekly・政経週報 2022年5月30日号掲載)
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