ポスト・マリトッツォは? イタリア菓子の素朴な魅力 畑中三応子 食文化研究家
2022.03.28
その年を象徴する食品や料理を選ぶクックパッド「食トレンド大賞2021」で、「オートミールごはん」に大賞は譲ったものの、順当に入賞を果たしたのが「マリトッツォ」。ローマ発祥のパン菓子である。ぐるなび総研「今年の一皿」でも、軍配は「アルコールテイスト飲料」に上がったが、有力候補だった。
笑い顔のように丸くてかわいいマリトッツォで、自粛生活のストレスを癒やした人もいただろう。思った以上の大ヒットになり、コンビニやスーパーに定着した。最近はおつまみや食事になる塩味マリトッツォも登場し、ブームはまだ続きそうだ。
「マリトッツォの次にはやるスイーツは何?」も、ネット上で話題になっている。再びイタリア菓子が来ると予測する向きが多いが、難しいかもしれない。というのは、イタリアに銘菓は数あれど、総じて見た目も味も飾り気がなく、菓子に美しさと繊細さを求める日本人には受けづらいのである。
しかし、その飾り気のなさこそがイタリア菓子の魅力。これまでレシピ集を何冊も作ったことのあるイタリア菓子愛好者として、ポスト・マリトッツォになってほしい3種を選んでみた。
ひとつめは「カッサータ」。(上の写真:ローソンのドライフルーツとナッツのカッサータは2個入り399円=筆者撮影)
イタリアに多いナッツとドライフルーツを使った菓子の典型で、白いクリームの中にアーモンドやピスタチオ、レーズンなどがたっぷり混ざっている。シチリア島で生まれ、いまではイタリアを代表する菓子のひとつだ。
カッサータにはアイスクリームタイプと生ケーキタイプがあり、現地では前者は生クリームで作るのに対し、後者には必ずリコッタチーズを使う。乳脂肪分15~30%のフレッシュチーズで、低脂肪だが牛乳のコクがしっかりあり、菓子作りに欠かせない材料だ。アイスクリームタイプは、ローソンとセブンイレブンから発売されている。
個性的な食感が日本人好みなのが「スフォリアテッラ」。(下の写真:貝殻形が特徴的なスフォリアテッラ(下)とこんもりしたドーム形のズコット=筆者撮影)
カッサータと同様、リコッタチーズとドライフルーツのクリームを包んだナポリ生まれのパイ菓子である。パイが独特で、バターではなくラードを使って生地を作る。極薄の層が何枚も重なり、バリバリッと硬質な歯切れよさがある。ただ、外来の食べ物は名前のよさもヒットの条件なので、覚えづらいのが弱点。買える店もまだ少ない。
残るひとつが「ズコット」。ルネサンス期のフィレンツェで誕生した伝統菓子である。菓子類の豊富なイタリアでもっともよく知られ、日本のイタリア料理店でも以前からデザートとして人気がある。カトリックの聖職者がかぶる小さな円形の帽子ズコットに似ているのでこの名がついたといわれる。外側をスポンジで覆ったドーム形のケーキである。
中身はチョコレートクリームまたは刻んだナッツとチョコ入りクリームが定番だが、ドーム形であれば中身は何でも詰められ、春はイチゴのズコット、秋はマロンのズコットというようにアレンジが自在にできる。
どれも地味でSNS映えはいまひとつだが、派手なお菓子にない、しみじみとした素朴なおいしさが味わえる。
(Kyodo Weekly・政経週報 2022年3月14日号掲載)
最新記事
-
明治大正期に大衆化 郷愁感じる「縄のれん」 植原綾香 近代食文化研...
外の空気が冷たくなってくると、赤ちょうちんの情景が心に浮かび、手狭で大衆的な居...
-
何個も食べられる甘さ加減 あばあちゃんのおはぎ 眉村孝 作家
宮崎駿監督のアニメ「となりのトトロ」で、サツキ・メイ姉妹の一家が田舎へ引っ越し...
-
おおらかに味わうシメの1杯 「元祖長浜屋」のラーメン 小川祥平 登...
古里の福岡を離れた学生時代、帰省の際は旧友とたびたび街へ繰り出した。深夜まで痛...
-
指なじみと口触りで変わる味 飲食店の割り箸の歴史 植原綾香 近代食...
マレーシアに赴任した大学の友人から電話がきた。マレー料理のほかにも中華系の店も...
-
街ごと楽しむ餃子 宇都宮で「後は何もいらない」 眉村孝 作家
6月下旬の週末の夕方。宇都宮市に単身赴任中の先輩Zさんと合流すると早速、JR宇...
-
東京にある「古里の味」 73年から豚骨ラーメン 小川祥平 登山専門...
京都小平市の西武鉄道「小川駅」から歩く。近づくにつれて漂ってくるにおいに「あれ...
-
あめ色に煮込んだカキ 宮城・浦戸諸島の味 小島愛之助 日本離島セン...
日本三景の一つである宮城県・松島湾に浮かぶ浦戸諸島、250を超える島々で形成さ...
-
特別なキーマカレー 利根川「最初の1滴」食べた 眉村孝 作家
「利根川の最初の1滴をくみ、みんなで朝のコーヒータイムを楽しみませんか」。こん...
-
戦火のがれきからよみがえった酒 沖縄、百年古酒の誓い 上野敏彦 記...
県民の4人に1人が犠牲になった沖縄戦。今年の5月15日は沖縄が日本に復帰して5...
-
カフェー情緒が濃厚だったころ 版画「春の銀座夜景」に思う 植原綾香...
仕事を終えて外にでると、蒸した空気に潮の香りが混ざっている。夏が来たと思う瞬間...