地域現れる雑煮 材料に歴史あり 木下祐輔 アジア太平洋研究所調査役
2022.02.28
そうか、こちらでは丸餅に白みそなのか。正月三が日、妻が作ってくれたお雑煮を見てふと考えた。
雑煮は1年の無事を祈り、正月に食べる伝統的な日本料理だ。沖縄など一部形が異なる地域もあるが、正月の風物詩として日本各地で親しまれている。そのため、餅の形やだし、具に至るまで多種多様な雑煮が存在する。(写真はイメージ)
数ある日本料理の中でも、特に地域の特徴が現れた料理といえるのではないだろうか。
雑煮の歴史は古い。諸説あるが、筆者が見つけたものでは、平安時代という記述が最も古かった。餅や野菜など、その年に取れた食材を神に捧げ、年が明けてから初めてくんだ水と、最初におこした火で炊いて食べた。特別な「ハレ」の日の食事という位置づけだったようだ。
次に、室町時代の京都で丸く小さな餅を入れた雑煮が登場する。
ただし、当時は汁物ではなく、アワビやナマコなどの海産物と一緒に炊いたもので、足利将軍家や上級武士の婚礼の儀の席上などで提供されていた。正月に限らず食べられていたという記録も残っている。
ちなみに、当時は餅の原料であるコメは高級品で、一般庶民が容易に手に入れることは難しかった。そのため、餅の代わりに里芋が入った雑煮が食べられていたようだ。
その後、江戸時代の中期、餅が手に入るようになったことで、一般庶民の間でも雑煮が広がっていく。全国的に雑煮を食べて正月を祝うことが習慣化した。この頃には既にみそやだし、しょうゆといった味付けや餅の形に違いがあったというのだから驚きである。
さて、雑煮の代表的な具である餅の形の違いだが、「日本列島雑煮文化圏図」によると、境界線は関ケ原のようだ。天下分け目の関ケ原から西の関西では丸餅、東の関東では角餅(切り餅)である。関西の丸餅は「円満」を意味し、一つ一つ丁寧に丸めて作る。
一方、人口が多かった関東では四角に切ることで一度にたくさんの人に渡すことができる角餅が好まれた。これも地域性を感じさせるエピソードだ。
では東日本は全て角餅かといえばそうではない。山形県の庄内地域では丸餅が食べられている。この地域は日本海側に位置し、江戸時代に大阪(当時の表記は大坂)と交易した北前船の寄港地であった。物品と一緒に文化も伝わったのだろう。
たかが雑煮、されど雑煮。材料一つ一つに、地域の歴史が詰まっているのだ。
折角なので筆者の実家で出された雑煮の具を思い出してみた。すまし仕立てで、餅は湯で煮た丸餅だった。それに豆腐とはまぐりを入れ、上にかまぼこと青ねぎが乗っていた。調べてみたところ、主に広島県で食されるカキ雑煮に近い。
しかし、肝心のカキがない。海側ではなく中国山地側なので、日持ちしないかきは使い辛かったのかもしれない。同じ県内でも場所によって違うのだ。ではなぜ、はまぐりなのだろうか。母親に聞いたが、理由は知らないという。謎は深まり、新年早々煮詰まってしまった。
(Kyodo Weekly・政経週報 2022年2月14日号掲載)
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