低カロリーで健康効果も 植物性原料のミルク 畑中三応子 食文化研究家
2022.02.21
年末年始に懸念された生乳の大量廃棄問題で、牛乳をそのままコップに注いでゴクゴク飲む習慣が復活し、「やっぱりおいしい」としみじみ感じている。
戦後、パン食の普及とともに牛乳の消費は右肩上がりで増えた。「新しい国民食糧」「完全栄養食品」と呼ばれ、池田内閣が所得倍増計画を打ち出したとき、社会党は「全国民に牛乳3合を」のスローガンで対抗した。
特に牛乳がよく飲まれたのは夏場で、冬場は需要が2、3割減った。暑い日に清涼飲料感覚で飲む人が多かったことがわかる。夏と冬で需要が変わるのが、メーカーの悩みだったようだ。
それが1996年をピークに、消費量はじわじわと減少していった。理由のひとつは、ドリンクの選択肢が増えて牛乳が選ばれなくなったこと。昔はミルクスタンドでびんの牛乳を一気飲みするサラリーマンが朝の駅の風物詩だったが、ペットボトル飲料、テークアウトのコーヒーに取って代わられて久しい。なかでも手強い牛乳のライバルが、植物性ミルクである。
牛乳に対して"第二のミルク"に位置づけられるのが豆乳。みそ、豆腐と同じく中国で発祥した古い大豆食品である。日本では特有の青臭さが嫌われたが、70年代後半、新しい脱臭技術で飲みやすくした製品が発売された。82年のプロ野球日本シリーズで優勝した西武ライオンズの選手たちが体づくりのため飲んでいたことが国民的話題になり、翌83年から84年にかけて爆発的に売れた。
その後、しばらく消費が落ち込んだが、2000年代に入るとダイエット食品として人気が復活。いまでは鍋料理やスープの材料としても活躍し、ヨーグルトやチーズ、ホイップクリームの原料にもなっている。まさに第二のミルクの地位を固めた。
現在"第三のミルク"が欧米から上陸し、人気上昇中だ。各種の植物性原料から作られ、牛乳にくらべてカロリーが低く、美容と健康効果が高いのがウリ。牛乳より生産にかかる環境負荷が低いところも歓迎されている。(写真:さまざまな原料から作られた植物性ミルク。たんぱく質を増強したタイプもある。すべて常温で保存できる=筆者撮影)
原料は、大きく分けてナッツと穀物の2種類。アーモンドミルクはすでにコンビニに並ぶほど普及している。低カロリーで、抗酸化作用のあるビタミンEを多く含むのが特徴だ。ナッツ系のミルクには原料特有の風味がそのまま受け継がれ、アーモンドミルクは非常に香ばしい。いまブーム中のピスタチオのミルクは、すっと鼻に抜ける独特の香りがする。
穀物系では、手作りもできるライスミルクが日本人にはなじみやすい味。また、最近は、甘酒がミルクのような感覚で飲まれるようになっている。
目下、注目されているのがオーツミルク。オートミールの原料、エンバクから作られ、食物繊維が豊富に含まれる。エンバク由来のほんのりとした甘みと香りがあり、重湯や甘酒になれていても、液体から穀物の風味を感じるのは新鮮な体験だ。
このように第三のミルクは、ミルクのように見えても味はミルクから大きく離れ、それぞれ実に個性的。代替乳というよりは、新しいおいしさのドリンクとして楽しむのがよさそうだ。
(Kyodo Weekly・政経週報 2022年2月7日号掲載)
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