たった一つの種芋 ミネラル豊富な種子島の味覚 小島愛之助 日本離島センター専務理事
2022.02.07
鹿児島県の種子島は大隅諸島を構成する島の一つであり、県内の有人離島の中で最も東に位置している。人口は2万9847人で全国の離島で7番目に多く、面積は444.3平方㌔で5番目に大きい離島である。最高地点の標高は回峯(まわりのみね)の282.4㍍で、宮之浦岳の1936㍍を最高峰とする隣の屋久島と比べると対照的な島といえる。
海の玄関口である重要港湾西之表港を有する西之表市、種子島空港の所在地である中種子町、宇宙航空研究開発機構の種子島宇宙センターが立地する南種子町の1市2町の自治体によって構成されている。鹿児島と種子島との間には、航空機(40分)、ジェットフォイル(1時間35分)、フェリー(3時間30分)がそれぞれ運航されている。
種子島といえば鉄砲伝来が有名な史実である。1543年8月25日、現在の南種子町前之浜に一艘の中国船が漂着し、この船に乗船していたポルトガル人の商人が所持していたのが2挺の火縄銃だったのである。このことを記念して、前之浜の近く、種子島最南端の門倉岬には「鉄砲伝来紀功碑」という記念碑が建てられている。
種子島はまた、サーフィンの聖地、サーファーの天国としても名高い。事実、東海岸を中心に数多くのサーフポイントが存在している。島に生まれ育ったローカルサーファーとサーフィンを目的として移住してきたサーファーがバランス良く共存しているという。俳優の木村拓哉と歌手の工藤静香が結婚前に種子島にサーフィン旅行をしていたという話は有名である。
種子島を来島された際に時間があればお勧めしたいのが西之表市にある「あっぽ~らんど」である。農業用水を主たる目的として建設された西京ダム周辺の緑豊かな自然の中に各種施設が整備された親水公園である。
「あっぽ~」とは種子島の方言で「遊ぼう」という意味であり、その名の通り家族連れでにぎわうことの多い場所であるが、西京ダムの周囲の遊歩道など隠れた恋人たちの聖地にもなっているようである。
さて種子島の味覚であるが「安納芋」(写真)をご紹介したい。太平洋戦争後、インドネシアのスマトラ島から帰還した日本兵が持ち帰った「たった一つの種芋」を種子島の安納地区で栽培したのが始まりだといわれている。
海底が隆起して誕生した種子島の土にはサツマイモをおいしくするミネラルが豊富にあり、それが種子島の温かい風土と合わせて、安納芋を普通のサツマイモと比べて甘く育てているのである。
サツマイモは寒さに弱い作物で、一般的には10月までに収穫することが多いが、冬でも平均気温が12度前後と温暖な種子島では12月ごろまで畑に置いておくことができるので、さらに多くのデンプンを蓄えることができる。
その後、掘った安納芋を12度~15度の専用貯蔵庫に1カ月以上置いて追熟させることで、βアミラーゼという酵素が活性化し、デンプンを糖に変えていくのである。甘味たっぷりの安納芋は水分も多いので、焼くとねっとりとした食感になる。焼き芋でご賞味いただくことをお勧めしたい。
(Kyodo Weekly・政経週報 2022年1月24日号掲載)
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