魅力増すジビエ料理 コンテスト応募レシピが200超 畑中三応子 食文化研究家
2022.01.24
「第6回ジビエ料理コンテスト」の2次審査が2021年12月に行われ、各賞が決まった。害獣として駆除されるシカ、イノシシの食肉利用拡大をめざし、農林水産省が鳥獣利活用推進支援事業の一環で実施するイベントだ。
テーマは「国産のシカ・イノシシを使い、多くの人に安全でおいしく提供できる料理」。和洋中のジャンルは問わず、180分以内で完成することなどが条件で、プロ、アマ、年齢不問でだれでも応募できる。
主催の日本ジビエ振興協会代表理事でフランス料理シェフ、藤木徳彦さんは「最初の年はカレーとマーボー豆腐風ばっかりだったが、年々レシピのバリエーション、点数とも増え、ジビエ料理の広がりを感じる」と語る。
今回の応募総数は218レシピ。約半数はプロだが、残りの応募者は飲食業以外の会社員、猟師、高校・大学・専門学校の学生、ユーチューバーと多彩。書類審査を通過した20レシピが2次審査に進み、本来なら本人に作ってほしいところだが、コロナ禍のためレシピ通りに再現したものをソムリエの田崎真也さん、全国調理師養成施設協会長の服部幸應さんをはじめ審査員7人が実食して採点した。
筆者も審査員をつとめたので"食レポ"すると、なにより感心したのが、家庭的な総菜あり、高級レストランで出すような洗練されたフランス料理ありと、多様性に富んでいたことだ。モチ麦入りでプチプチ食感の酢飯とシカ肉ロースト、イノシシ肉そぼろ、甘辛ソテーとを組み合わせた寿司は、加熱したジビエ肉で寿司を作るという発想が新しく、親しみのわく味だった。清涼飲料水のコーラでイノシシのスペアリブを煮込む中国料理には驚かされた。
みそを隠し味に使う洋風料理が多かったのも印象的だった。というのは日本でシカ、イノシシはもっぱらみそ仕立ての鍋にするのが一般的だったからだ。
江戸時代まで表向きは肉食禁止だったが、獣肉はひそかにたしなまれて「ももんじ屋」「けだもの屋」と呼ばれる店で鍋が食べられた。みそは肉の匂いをやわらげ、含まれる酵素がたんぱく質を分解して肉を軟らかくする。ジビエにうってつけの調味料なのである。応募者は日本の食文化から、みその効用を学んだのだろう。
同点の2品がトップに並び、さらに細かい審査の結果、宮城県の調理製菓専門学校生、松浦祐未惠さんの「柔らかく仕上げたシカ肉のロースト 色とりどりの野菜添え 芋煮の季節を感じて」(上の写真=一般社団法人日本ジビエ振興協会提供、以下同)が最高賞の農林水産大臣賞に輝いた。
仙台みそと塩こうじでマリネし、低温ローストするという調理法が素晴らしく、東北地方の秋の郷土料理である芋煮の野菜をふんだんに取り合わせ、地域性が豊かに表現されているところも高く評価された。
(2位で農林水産省農村振興局長賞のイノシシを使った作品)
20年度に捕獲されたシカは約67万頭、イノシシは約68万頭。このうちジビエとして利用されたのはごく一部で、ほとんどが捨てられた。こうした取り組みで消費が増えれば奪った命に報いることができ、地域振興の一助にもなる。
(Kyodo Weekly・政経週報 2022年1月10日号掲載)
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