作り置きしない人のために 魔法の調味料でおいしく タカコナカムラ ホールフード協会代表理事
2021.10.20
今年のノーベル物理学賞に選ばれた真鍋淑郎さんが、インタビューで「日本料理で何が食べたいですか」と問われ、「おいしい料理とそれに合うお酒があればいい」とお答えになり、私と同じ意見、と猛烈に親しみを感じてしまいました。
四季折々の旬の食材とそれに合う酒を夫婦で飲み、いい音楽でもあれば、最高。こんな日常が何よりの癒しであり、明日の力になっております。
安部司さんと作った新刊「『プロの手抜き和食』安部ごはん ベスト102レシピ」(東洋経済新報社)は、5つの合わせ調味料(魔法の調味料)を常備しておくことを推奨しています。同書が取り上げたメニューのうち最も多いのが、5つのうちの「かえし」を使ったものです。
和の味付けのベースであるかえしは、しょうゆと砂糖を容器に入れて、1週間寝かせるだけ。スピーディーに、おいしく料理を作ることができます。かえしを使ったレシピを3つ紹介しましょう。
〈男性に人気の締めのたい茶漬け〉(上の写真)
ファスナー式の袋にタイの刺身を入れて、かえしとすりごまを加え、ひと晩冷蔵庫に。急ぐときには、空気を抜いて密閉すると漬かりは早い。
茶わんにご飯をよそり、タイを乗せ、わさびを乗せ、熱々のだしをかけていただく。袋に入れたものは、冷凍保存も可能。
〈絶品ちりめんさんしょう〉
次は、かえしで作る加熱しない、ちりめんさんしょう。ちりめんジャコ、実さんしょうをファスナー式の袋に入れ、かえしを少量入れてひと晩、冷蔵庫で寝かせる。
翌日、調理用バットにキッチンペーパーを敷き、袋からちりめんを出して広げる。そのまま冷蔵庫で乾燥させれば、京都のお土産店で買ったようなちりめんさんしょうが完成です。
〈5分でできる親子丼〉
鍋に鶏肉と玉ネギ、出汁とかえしを入れて火にかける。溶いた卵を入れて、ふたをして完成。丼ご飯にかけて、ふわとろの親子丼を手軽に作ることができます。
新刊「安部ごはん」が取り上げている、かえしをはじめ5つの合わせ調味料は、作り置きをしない人のためのものと言えるかもしれません。
作り置きはおいしくない
少し前ですが、白いほうろうの容器に1週間分をまとめて「作り置く文化」(?)がはやりました。
作り置く理由は、料理の手間を極力抑え、特に仕事を持っているお母さんたちが帰宅してすぐに食卓に料理を出せたり、料理をする時間を別のことに費やしたりできるからだと思います。まとめて作ることの達成感や、SNSに上げたときの高揚感があるからかもしれません。
「作り置き文化」が普及したのは、共働きが増え、家事の負担を抑えるために考えられたからで、多くの作り置きレシピ集も出版されています。
私は作り置きをほぼしません。もちろん、梅干し、らっきょう、甘酢しょうが、手前みそ(自家製みそ)、ゆずこしょうなど、長期保存するものは例外。日々のおばんざい(家庭用の総菜)的なものは、作り置くことがありません。
私が作り置きをしない主たる理由は、作り置きしたものは、出来たてよりうんと味が落ちるということ。おいしくないから、というシンプルな理由です。
例えば葉物の和え物、キャロットラペ、きゅうりのみそ漬けなどは、時間がたつと野菜から水気が出て、おいしくはない。かぼちゃの煮物やズッキーニーのオーブン焼き、ゴーヤチャンプルーとて、出来たてより味は確実に落ちる。冷蔵庫の独特の臭いがなんとなく染み込み、家族の箸も伸びないのが実情です。
作り置きをしても味の劣化が少ないものは、日本の伝統的な保存食や調味料です。味にうるさい人はそこを良く理解して、決して作り置きをしないと思うのです。
料理人が作り置く場合は、素人とは違い、煮物でも別々にたっぷりの出汁にいれて保存したり、低温調理や真空パックにしたりして、食べる際にベストな状態で提供できるプロの方法を実践されています。
子供が巣立ち、夫婦二人で暮らしている私は、死ぬまでおいしいものを食べ続けていたいと思います。私のような作り置きをしない食いしん坊たちに、お勧めしたいのが「安部ごはん」です。完成前に寸止めして仕上げるとき、5つの合わせ調味料が非常に便利で重宝するのです。
「『プロの手抜き和食』安部ごはん ベスト102レシピ」は、発売から約1カ月で4刷りと、おかげさまで、大変、好評をいただいております。
料理初心者向けにできるだけ簡単に、手に取ってもらえる内容にしようということで、タイトル、表紙を考えていただきましたが、実際は、料理好きで、忙しい生活をしながらも、食を心底楽しんでいる人が購入されているようです。
(安部司著、タカコナカムラ料理、税込み1430円)
文、写真は料理家のタカコナカムラさん。安全な食と暮らしと農業、環境を「まるごと=whole(ホール)」考えて活動する一般社団法人「ホールフード協会」の代表理事です。
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