島で受け継がれる鍋 福岡・宗像大島の名物 小島愛之助 日本離島センター専務理事
2021.09.13
福岡県宗像市の神湊港から北西約6.5㌔の海上に位置するのが宗像大島。筑前大島ともいい、福岡県に八つある有人離島の中では面積(約7.2平方㌔㍍)が最大の島である。
島の面積の約半分が丘陵地であり起伏が激しく、中央部にある御嶽山(標高224㍍)が島の最高峰である。島の東側には本土との間を結ぶ船が発着する大島港があり、フェリー「おおしま」で約25分、旅客船「しおかぜ」で約15分で神湊港と結ばれている。
大島から約50㌔北には「神宿る島」宗像・沖ノ島があり、大島港の近くにある「中津宮」と北側にあり沖ノ島の沖津宮を拝する「沖津宮遙拝所」の2カ所は、2017年7月に「神宿る島」宗像・沖ノ島と関連遺産群の構成資産として、世界遺産に登録されている。
ちなみに沖津宮遙拝所は、渡島や上陸が禁止されている沖ノ島の沖津宮を参拝するために建てられたものであり、建物の裏側にある窓から48㌔先に沖ノ島を望むことができる。
日露戦争中の1905年5月27~28日の「日本海海戦」の際には、大島にも多くのロシア兵の遺体が流れ着き、住民たちによって手厚く葬られたといわれている。
1936年には、陸軍下関要塞の大島砲台として、島の北岸にキャノン砲4門が設置され、周辺に観測所、地下弾薬庫、発電所などの付随施設も作られた。戦後キャノン砲は撤去されたが台座などの遺構は残されている。2013年11月には大島砲台手前に「日本海海戦・戦死者慰霊碑」が建立されている。
御嶽山頂には展望台と「中津宮」の奥宮にあたる「御嶽神社」がある。この神社は古代には中津宮の祭祀場であったといわれる。「中津宮」の境内には天の川が流れており、この川を挟んで、中津宮に向かって左右の丘の上に織姫神社(織女神社)と彦星神社(牽牛神社)が祭られており、日本の七夕伝説発祥の地ともいわれている。なお大島の七夕神事ゆかりの「祈り星」を天の川で願いを込めながら洗うと、願いが天まで届くそうである。
さて、宗像大島の郷土の味であるが、何といっても「トウヘイ鍋」(写真)を紹介せざるを得ないだろう。「トウヘイ」とは本州の中部以南の海域に生息する大ウナギに似た魚で、「クロアナゴ」のことである。他の種類のアナゴに比べて大きく2㍍ほどになるものもある。小骨が多く下処理が難しいので以前は捨てられていた「トウヘイ」を鍋にした漁師料理がはじまりである。
「トウヘイ」は秋から冬にかけて脂がのり、おいしくなることから、その後次第に広まりはじめ、旅館や一般家庭でも食べられるようになった。
「トウヘイ鍋」は祭りや行事などの時に家族や仲間で囲むハレの日の料理として親しまれている。骨と昆布でスープを作り、トウヘイの身、内臓、脂をキャベツなどと一緒にみそ仕立てで煮込んでいくのである。獲れる量が少なく、さばき方も難しいため、大島だけで受け継がれてきた名物の「トウヘイ鍋」は一食の価値があると言えそうである。
(KyodoWeekly・政経週報 2021年8月30日号掲載)
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