手抜きでもプロの味 常備したい5つの調味料 タカコナカムラ ホールフード協会代表理事
2021.09.21
東京などではコロナ禍の緊急事態宣言が9月末まで延長され、「おうちごはん」の機会がまだしばらく多くなりそうです。先の見えない不安、不満でいっぱいですが、そんな中、おいしいのに簡単にできる和食のレシピをご紹介します。アジのみりん干し(写真)です。
アジを一晩、かえしに漬けます。翌日は天日で干すのではなく、バットに網を乗せ、その上にアジを広げ、冷蔵庫に入れます。冷蔵庫は低温かつほどよく乾燥しているので、干物には絶好の場所なのです。
こんなユニークな、普通の料理家では思い付かないようなレシピをたくさん取り上げた新刊「『プロの手抜き和食』安部ごはん ベスト102レシピ」(東洋経済新報社)を出しました。安部司さんとの共著です。
共著者の安部司・一般社団法人加工食品診断士協会代表理事は、山口大学を卒業後、商社で食品を担当。添加物を含む食品の開発もされました。その後退職、転職を経て、2005年に食品添加物の現状、食生活の危機を訴えた「食品の裏側」(東洋経済新報社)を上梓します。
同書は70万部のベストセラーになり、講演会やセミナーで活躍するようになりました。現在は加工食品診断士協会のトップとして、添加物に頼らない食生活の指導者を育成されています。私とは20数年前に安部さんのセミナーを受講して以来の知り合いで、和食や添加物について共に考え、行動してきたと言えるかもしません。
安部さんは10年ほど前、講演会で全国を回っていたときですが、親の介護、食事の世話をすることになりました。その際に、添加物を含まない加工食品を探すより、おいしい料理を自分で簡単に作るための「合わせ調味料」を作っておき、使ってはどうかと考えました。そして考案したのが「5つの魔法の調味料」です。
それは①和の味付けのベース「かえし」②上品な甘味と風味「みりん酒」③大人も子どもも好きな味「甘酢」④肉料理の隠し味にもなる「甘みそ」⑤ドレッシングのアレンジ抜群「たまねぎ酢」ーです。これらを入れるだけで、プロの手による料理のような「ひと手間かけたような複雑な味わい」と、「長時間調理したような深み」を出すことができるのです。
安部さんが、ご両親が「無添加料理」を食べて体力を付けられたことを自慢にし、「無添加を訴えるのはもうやめる」「この5つの合わせ調味料があれば、誰でも和食が簡単に作れる」と話されていたことを覚えています。当時は5つの調味料が「『パパ』が愛する家族のために作っておく便利『調味料』」であることから、最初と最後を取って「パパ調」と呼んでいました。
「『プロの手抜き和食』安部ごはん ベスト102レシピ」は、安部さんが残してきたメモが元になっています。実はレシピ集出版の話が持ち上がったとき、安部さんは私のところに、15年もため込んだメモや走り書きのノートを、袋に入れて持ちこんだのです。
メモやノートには、レシピから調理のアイデア、講演のあいさつまで、びっしりと書き込まれていました。「5つの調味料」に関しては、「レシピはあくまで一例です。5つの調味料の味をおぼえると、アレンジで無限に調理が広がるはず」「使わないのは顆粒だし、化学調味料、タンパク加水分解物、酵母エキス、各種エキスが配合されているもの」「冷凍食品やインスタント食品は、簡単便利であるが食品工業的な濃い味になる」ーなどと書いてありました。
「パパ調」については「5つの調味料はパパが作ろう。なぜなら子どもが喜ぶ、パパを見直す、家族だんらんが生まれる」と記されていました。私はこれらを読んで、メモはすべて私が整理して、レシピ集にまとめようと思ったのです。
日本の食卓に強い危機感を持ち、「食品の裏側」を分析した上で、料理を具体的に指南する書が「『プロの手抜き和食』安部ごはん」です。安部さんの豊かな発想からスタートし、作ってみると簡単で「うそでしょう?」と感じるレシピをたくさん載せました。
料理とは空腹を満たすものではなく、作る時間を食べる人のために費やすものです。野菜を洗い刻んでいるときも、食べてくれる人を思いながら作るものが料理ではないでしょうか。だからしみじみおいしい、食べて身体が喜こぶ、血となりエネルギーとなる、のです。5つの合わせ調味料を備えておけば、おいしい和食を時短で作ることができます。この本を手にして、チャレンジしていただければうれしいです。
文、写真は料理家のタカコナカムラさん。安全な食と暮らしと農業、環境を「まるごと=whole(ホール)」考えて活動する一般社団法人「ホールフード協会」の代表理事です。
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