ワインが示す畑の〝底力〟 新ビンテージ試飲の季節 石田敦子 エノテカバイヤー
2021.05.10
4月は進級、進学など新しいことが始まる時期でもあるが、私たちにとっては、フランス・ボルドーの新「ビンテージ」(ブドウが収穫された年)を試飲するタイミングだ。(写真:ボルドー、シャトー・ムートン・ロスチャイルドにて=2018年4月)
ボトルへ瓶詰めする前、たるで熟成中のワインを試飲しながら買い付けを決める「プリムール」という取引がボルドーにはあり、通常の出張期間は1週間。月曜朝から金曜夜まで、シャトー(ワイナリー)を訪問しながら新ビンテージを試飲、シャトーやネゴシアンとの商談、昼夜の会食でいっぱいの濃い1週間であり、スケジュールを自身で組んでいるものの、大変目まぐるしい。
もちろん今年は去年に続きこの出張に行けないため、2020年ビンテージのワインは、サンプルを取り寄せて日本で試飲し、生産者とはリモートでミーティングをする予定だ。
ボルドーは、商業的なイメージが強く、生産量のスケールも大きいため、"人"という存在が見えにくい。天候の苦労や生産者の努力も見えにくい。
しかし、ボルドーのみならず、何の苦労もないワイン産地などはなく、雨量、日照量、霜やひょう、気候変動がもたらす影響や変化に合わせ、環境に配慮をしながら未来を見据えて、さまざまな対応がされている。
ワイン造りは自然が相手。毎年それぞれ違うビンテージが生まれることこそが、ワインの魅力であり、ビンテージの個性である。消費者目線でいえば、「はずれ年」より「当たり年」を選びたいのは自然なこと。
ただ、ボルドーは年々、はずさなくなっていると感じる。
大学や専門機関での研究などが現場で活かされる仕組みが築かれているほか、充実した醸造施設、栽培にかける資金力、過去の経験に対してスピードを持って対応できること、難しい年でも一定の品質をコミットする、世界トップ産地の強さはそこにある。
買い付けの際、当たり年とよばれる年は、はっきりとした意志がワインから伝わり、圧倒されるものがある。
一方で、天候における苦労などがあった年は、ワイン自身による言葉数が少なめで主張も控えめであるからこそ、耳を傾けたくなる。それぞれの生産者が切磋琢磨しながら仕上げる背景。当たり年よりも品質の差がシャトーごとに出るのもこういう年でもある。
そしてそんな時「いいテロワール(ブドウを取り巻く生育環境)があるからね」という言葉が飛び交う。偉大とよばれるシャトーの畑は、どんな年も、難しいといわれる年でも、畑が持つ"底力"がワインに表れるのだ。
2020ビンテージ。ワインの品質や特徴を追うことはもちろん、どんな思いがボトルにこれから込められるのか。ワインはまだ、たるの中だ。生産者から丁寧に聞き出したい。
(Kyodo Weekly・政経週報 2021年4月26日号掲載)
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