再ブームを起こす底力 鶏のから揚げ、専門店も急増 畑中三応子 食文化研究家
2021.05.03
この1年、好きな店がコロナで閉店、という悲しみを何度も味わった。そんな状況下、新規の出店が目立って増えているのが、鶏のから揚げの専門店だ。
テークアウトとデリバリー専門だったり、イートインもできたり、既存のファミレスに併設したりと、形態はさまざま。街を歩けば「から揚げ」の看板に当たる。
急増の理由としては、巣ごもり生活にマッチしたこと、フライヤーがあれば特別な技術は要さず、調理場も小さくてすみ、出店しやすいこと、安価な輸入肉を使えば原価率が低く抑えられ、利益を上げやすいことなどが挙げられる。
それにしても、以前からあらゆるタイプの外食店で提供され、家庭のおかずとしても定番、その上コンビニでいつでも買える身近な料理なのに、改めてブームを起こす底力には驚いた。おかず、おつまみ、おやつにと、幅広い需要に応える汎用性がなせる技だろう。
鶏肉の高たんぱくで低脂肪という健康的なイメージと値段の安さも、から揚げ人気を押し上げた要因だ。食料需給表によると鶏肉消費量は2015年度の1人1日当たり34.4㌘から19年度は38.1㌘と年々少しずつ増えている。16年度に豚肉を抜き、日本人がいちばん多く食べている肉になった。
ブロイラーが普及する1960年代まで、養鶏は採卵用が中心で、出回るのは卵を生まなくなった廃鶏の肉だったため筋張って硬く、柔らかい若鶏は高級品だった。60年度の1人1日当たり消費量は、たったの2.3㌘で牛肉より少ない。
家庭で鶏肉のから揚げがよく作られるようになるのは70年代から。その前、から揚げといえばアジやワカサギなど、魚を丸ごと揚げる料理を指すことが多かった。
ところで、からっと揚げるのが語源ではなく、から揚げには「空揚げ」と「唐揚げ」、2種の表記がある。空揚げは、天ぷら、カツと比べて衣をあまりつけない(=衣が空)ことが由来とされる。
一方の唐揚げは、必ずしも唐風(=中国風)を意味しない。料理としてのから揚げは戦前から存在し、唐揚げと表記したレシピでも中国的味つけではないところから考えるに、外来の食べ物というイメージで名づけたのではないだろうか。
1932(昭和7)年、外食メニューとしてはじめて鶏の唐揚げ(当初からこの表記)を出したといわれるのが、銀座の「三笠会館」である。ハイカラな味は人気を博し、鶏をおろす専門スタッフが常駐し、店名を「チキングリル三笠」にしたほど。戦後の食料危機のさなかでも唐揚げの材料だけは切らさないよう努めたという。
現在も、伝統のレシピが大切に受け継がれる。(写真:「三笠会館」の唐揚げは1階のイタリアンバールで、レモンと練りがらし、ごま塩を添えて提供=筆者撮影)
注文ごとに丸鶏を骨つきのままぶつ切りにして薄口しょうゆ、砂糖、焼酎、ごま油を合わせたタレを軽く絡ませ、片栗粉を薄くまぶし、約180度の油で揚げる。タレは決してもみ込まず、粉をつけるときもぎゅっと丸めず余分はしっかり落とし、ときどき網ですくって空気にふれさせながら揚げるのがコツ。家で作るとき、ぜひ取り入れたいポイントだ。
1皿に5切れ、胸、もも、手羽と各部位の異なる食感が楽しめる。衣はサクサクふわりと繊細、肉はタレに漬け込まないのであっさりと上品。元祖の味は、から揚げは洗練された料理だったことに気づかせてくれた。
(Kyodo Weekly・政経週報 2021年4月19日号掲載)
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