食べ物語

ちらしずしで家族だんらん  コロナ禍でこそ家庭の味を  タカコナカムラ ホールフード協会代表理事

2021.04.05

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ちらしずしで家族だんらん  コロナ禍でこそ家庭の味を  タカコナカムラ ホールフード協会代表理事の写真

 コロナ禍で入学式や歓送迎会も自由にはやれない2021年春。かつてはお祝い事や家族・親族が集まった時に食べる特別な料理が、ちらしずしでした。

 私が子供の頃には、ちらしずしが食卓に並ぶだけでテンションが上がり、どこの家庭でもおもてなし料理として楽しまれていました。

歴史、風土を背景に


 全国各地には「ご当地ちらしずし」がたくさんあります。

 山口県岩国市に伝わる郷土料理「岩国寿司」は「殿様寿司」という異名を持ち、酢飯と魚の身をまぜたものを木の器につめ、その上を錦糸卵やレンコンやシイタケで飾る。それを何層も重ね、重しで仕上げる押しずし。一度に5升ほどの米を使うほど、大きなちらしずしです。昭和の時代には各家庭が専用の器を持っていたそうです。

 長崎県大村市の「大村寿司」は、約500年前の戦国時代の大村家当主の戦勝祝いとして領民が作ったことが始まり。急なことで膳の用意ができず、「もろぶた」(木製の長方形の箱)に炊きたてのご飯を敷き、魚や野菜などをのせ、押しずしにして出したといわれています。

 駅弁としても知られるのが岡山県の「祭り寿司」。江戸時代の岡山の大名の池田光政が、国の人々がぜいたくをしないようにと「食事は一汁一菜とする」というお触れを発令。それでも特別な日はごちそうが食べたいからと、魚や野菜を目立たないようにすし飯にまぜることで、「一菜」の体裁を整えたのが始まりだそうです。

残るは「映え」狙いだけ?


 ちらしずしは和食の文化や郷土食を手軽に表現でき、家庭の味を作りやすく、だんらんの食卓に出てくるもの。外食やテイクアウトメニューではなく、家庭料理として継続されてきた珍しい和食ではないでしょうか。

 そんなちらしずしが、日本の食卓から消えつつあります。家族で食卓を囲む時間や機会が減ってきたからだと思われます。

 地域の交流がなくなり、都会ではお祭りや町内の行事も珍しくなりました。ちらしずしは誰かと囲んで食べるもの。孤食が増え、行事が消え、それに新型コロナウイルスの影響もあります。

 先日、我が家でも久々に家族そろっての食事に張り切ってちらしずしを作ったところ、息子は「ごめん、今、糖質制限中なんでちらしずしはパス」と言う。

 そんな中、インスタ映えするようなちらしずしだけは、残っているようにみえます。

 例えば「ケーキ型のちらしずし」や、ニンジン、赤カブ、キュウリなどカラフルな野菜を花びらに見立て、すし飯の上に乗せた「花びらずし」、透明のプラスチック容器に入れて、フランス菓子ミルフィールのように多層にした「カップちらしずし」など、味の追求より見た目重視の傾向があります。

作ってみよう、合わせ酢から


 この春、ご家庭でちらしずしを作ってみましょう。ポイントさえ押さえておけば、料理初心者でも大丈夫です。祝いの席にもぜひ、出してみてほしいと願っています。

【合わせ酢】

 まず自家製の合わせ酢を作ります。鍋に米酢200㍉㍑、塩20㌘、砂糖80100㌘を入れて煮溶かし粗熱が取れたら瓶に保存します(写真)。「米酢の10%の塩、半量の砂糖」は調味料の「黄金比」なので、覚えておくと便利です。

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 常温で1年は持ちます。常備しておくと、ちらしずしだけではなく、酢の物やピクルスにも活用可能。炊きたてのご飯に混ぜるだけで酢飯の完成です。

【具材】

 必須素材は干しシイタケです。だしが出るのでできればひと晩、水を入れて低温でゆっくりと戻すのがおいしい食べ方です。

 具材はニンジン、レンコン、タケノコなどを、この干しシイタケの戻し汁としょうゆ、みりん、砂糖で煮ておきます。具材には凝らずに、シンプルに甘辛く煮ておきましょう。

 この具材を酢飯にまぜておきます。

【トッピングで彩りを】

 ちらしずしの見栄えと味の決め手はトッピング素材。卵焼きは必須です。難しい錦糸玉子ではなく、卵焼きをキューブ状に切る方が、見栄えもよいし、おいしいと思います。

 トッピングで季節感や豪華さを演出することができます。ボイルしたエビ、イクラ、刺身用のサーモンや魚があれば、豪華になります。

 ちらしずしは何と言っても彩りが大切です。卵の黄色を引き立てるのは、絹サヤエンドウ、インゲン、菜の花などの青み野菜です。なければカイワレダイコン、スプラウト、大葉でもオーケーです。

 盛り付ける器によっては、メイン料理として食卓の真ん中に置きたくなります。すし桶や重箱、大きな皿がない場合は木箱、ざるにラップを敷いて盛り付けるのもおしゃれです。


 文、写真は料理家のタカコナカムラさん。安全な食と暮らしと農業、環境を「まるごと=whole(ホール)」考えて活動する一般社団法人「ホールフード協会」の代表理事です。

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