春こそ「養生食」 身体目覚める「苦み」「酸味」 タカコナカムラ ホールフード協会代表理事
2021.03.04
体調不良を感じたら、病院へ行くか薬を買い求める人が多いと思います。私は、まず、食べ物で養生をして、様子を見ることにしています。
四季のある日本では「七草がゆ」「冬至のかぼちゃ」「ゆず湯」など、季節の催事や行事食が暮らしに根付いていました。それを楽しむことが、自然と身体のメンテナンスになっていました。そこには先人の知恵が詰まっており、何より、おいしい旬の素材を楽しむことができました。
現在は流通・食品業界のイベントは盛んに行われていますが、四季の催事や行事食が暮らしに根付いているとは言えないかもしれません。
「食養生」とは
「食養生」というと、古い、難しい言葉のように聞こえるかもしれません。明治時代の医師・石塚左玄が、風土性と自然食を強調する食物養生法を縮めて「食養」と名付け、食と養生の大切さを説いたことから生まれた言葉です。
かつて西洋の薬がない時代は、日本人は植物や虫を煎じたりして養生してきました。つまり、養生の基本は食べ物でした。
左玄の言葉に「春苦味、夏は酢の物、秋辛味、冬は脂肪(あぶら)と合点して食へ」というのがあります。旬の食べ物は身体のリズムに合い、体を整えてくれます。
冬は運動不足に陥りやすく、新陳代謝も減少し、濃い味の動物性食品を多く食べる傾向があり、血液はドロドロになりがちです。
身体を目覚めさせる山菜
春の苦味の代表は山菜。春の山菜の苦味は身体にとって刺激となり、身体を目覚めさせ、血液の流れをスムーズにしてくれます。さらに、冬の間、ため込んだ脂肪や老廃物をデトックス(排出)してくれるのが山菜です。
科学的にみても、山菜に豊富に含まれるファイトケミカル(野菜に含まれる健康に有用な成分)やミネラルには強い抗酸化作用があり、春に山菜を食べる習慣は、栄養学的にも理にかなった昔ながらの知恵なのです。春になると山菜を欲するのは、自然の摂理かもしれません。
東京ではまだ天然の山菜は少し早いのですが、ほろ苦いセリやミツバなどの青い葉物は、この時期、ぜひおすすめの野菜です。汁物やごまあえ、白あえ、お浸しなど手軽に使ってみましょう。
特にセリは冷たい水と太陽の日の当たる場所で育ち、葉酸も豊富で、血液をすっきりときれいにしてくれる働きがあります。根まで丸ごと食べることがお勧め。
今おいしい葉物は、ほろ苦い「菜花」です。菜花というと黄色い花の菜の花を思い浮かべますが、一般的にはアブラナ科アブラナ属すべての花のことをいいます。ナタネだけではなく、カブ、白菜、キャベツ、ブロッコリー、小松菜、ザーサイなど多くのものがあります。
菜花を見掛けたら何の菜の花か、お店の人に聞いてみましょう。白菜の菜花は、とう立ち(花を付ける茎が伸長すること)の後でないと収穫できないため、農家の人しか食べられない貴重なものです。
苦味のフキノトウ
苦味といえば、フキノトウ。フキは古くからせき止めやたん切りとして民間療法に用いられてきました。フキは古い野菜で、日本各地で野生しています。凍りついた大地の下から芽吹くフキノトウは、生命力にあふれています。
大きな葉っぱは、布代わりにも使用。若葉から葉柄も食べられる、捨てるとこなしのエココンシャスな(環境に優しい)野菜です。
簡単に作れるフキみその作り方を紹介します。日本酒のさかなにぴったり。おむすびに塗ったり、お茶漬け、豆腐にのせるなど春の味覚をお楽しみください。
【フキみそ】賞味期間:冷蔵庫保存2週間
フキノトウ ... 100㌘
植物油 ... 大さじ1強
みそ ... 大さじ4
みりん ... 大さじ2
砂糖 ... 小さじ1
①フキノトウは50℃洗いしてあくを取り、水気をよく吹いておく。苦味が苦手な方はさっとボイルするのもあり
②細かく刻んでおく。調味料はボウルに混ぜておく
③フライパンに油を多めに入れて②を炒める
④調味料を入れて、全体になじむまで弱火で炒める。甘みが足りない場合は、足してください
苦味プラス酸味を
「苦味」に続く春の食養生のポイントは「酸味」の食材です。陰陽五行の理論に基づくと、春は「肝」の働きが乱れがちで、芽吹きの季節でもあります。分かりやすく言うと、エネルギーが上へ上へと上昇するために、めまいやのぼせでボーっとしてしまいがちになる。
「肝鬱(かんうつ)」という言葉もあります。肝が弱ると情緒不安定になり、イライラや不安も感じやすくなる季節といえます。昇りすぎ、飛ばしすぎの気のバランスを取るのが「酸味」の食材です。
いま店頭にはミカンにかわり、かんきつ系フルーツが並んでいます。酢の物や梅干しも酸味食材です。
ドレッシングにかんきつ果汁を使ったり、特にお酒は「肝」を酷使するため、酢の物を添えたりすると良いでしょう。
東日本は雪深い地域もありますが、大地の下では春が少しづつ芽吹きはじめています。今年は桜の花を間近で見ることができることを願います。
文、写真は料理家のタカコナカムラさん。安全な食と暮らしと農業、環境を「まるごと=whole(ホール)」考えて活動する一般社団法人「ホールフード協会」の代表理事です。
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