語れる産地ピエモンテ 石田敦子 エノテカバイヤー
2021.03.01
「ワイン業界のトレンドは?」そう聞かれることは多いがコロナ禍における「家飲み」の影響はワインビジネスとしても大きい。個人的にも、ワインの消費はもちろん、グラス、ナイフ、フォーク、お皿、仲間入りしたグッズが増えた。
「ワインの産地や種類」という軸で考えると、なかなか流行色のように「これ!」と言い切れない。
一瞬だけはやるものももちろんあるが、生産者と取引をするということは、一緒のボートに乗ること。長い旅路を共にすることであり、言い過ぎだが、家族が増えることだ。その信念を胸に、トレンドという視点ではないが、心して「新たな家族」を真剣に探し、注目している産地がある。イタリアのピエモンテ州だ。
「なぜ今ピエモンテか?」。答えは、われわれがワインラバーとして魅了されたから。バローロやバルバレスコを生むワインの銘醸地。歴史、多様な土壌、確かな品質があり、最近ますますエレガントなワインが多く生まれている。
同時にワイン商としてのミッションでもある。ピエモンテは「語れる産地」(=知名度)としてはまだまだ。秘めた部分も多いが、だからこそチャンスもあり、やりがいがある。
フランス・ボルドーやブルゴーニュのワインがどんどん高騰する中、世界の流れ、タイミングを考えた上で、30年ワインビジネスに携わるエノテカ会長の廣瀬恭久がアクセルを踏むと決めた。
ピエモンテは、他のイタリアの州同様、その土地ならではの土着品種が豊富で、なかでも高貴なブドウ品種、ネッビオーロで造られる赤ワインが有名だ。生産者、畑、品種ごとに個性がさまざまで、フランス・ブルゴーニュとの共通点も多い。行けば行くほど自分たちがほれこんだ。
(写真:ロベルト・ヴォエルツィオの畑にて、ワイン醸造を担当するブッソーロ氏(右)から説明を受ける筆者=2019年1月、ピエモンテ州ランゲ地方)
取り扱う生産者はこの5年で3生産者から19生産者にまで増えた。数が多ければいいというものではないが、それだけ多様性豊かな産地ということだ。一件、一件、話し合いを進めたえりすぐりの新しい家族たち。今だけのためではなく、10年、20年、30年、未来のために伝える覚悟がここにある。
最後に、「家飲み」×「ピエモンテワイン」のおススメを一つ。ピエモンテでは仔牛肉のタルタルをよく食べる。出張時には、ほぼ毎日オーダーする私が大好きな一品だ。
日本では生肉は食べられないので、タルタル欲を満たすために、マグロをオリーブオイルとしょうゆ、こしょうで漬けにしたものをピエモンテワインと合わせている。手頃な価格で、これが軽めのネッビオーロがぴったり! 日本にいながらピエモンテを感じる組み合わせは楽しいので、ぜひ。
(Kyodo Weekly・政経週報 2021年2月15日号掲載)
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