食べ物語

納豆の普及を進めたモノ  畑中三応子 食文化研究家

2021.02.15

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納豆の普及を進めたモノ  畑中三応子 食文化研究家の写真

 1月にテレビ朝日系列で、納豆を特集する情報バラエティー番組が放映された。印象的だったのは、納豆が「いま大ブーム」と紹介されていたこと。たしかにスーパーなら10種以上、コンビニでも3、4種、大豆の種類や粒の大小、タレの味、機能性など、さまざまなタイプが並び、選ぶのに悩むほどの活況だ。(写真:大豆の品種や産地、タレの味などで個性をアピールする納豆=筆者撮影)

 納豆といえば、2007年のダイエット捏造事件は忘れられない。ある番組で「朝晩1パック、よく混ぜて20分放置してから食べれば劇的にやせる」と提唱され、直後から各地で品切れが起きた。

 大手メーカーが新聞におわび広告を出すほどの騒ぎになったが、2週間もたたないうちに内容はすべて捏造だったことが判明。テレビの放送倫理に関わる社会問題にまで発展した。そんな負の記憶も薄れ、地に足がついたブームが進行している。

 現在のブームの背景にも、健康維持と増進効果に対する期待があるのは間違いない。

 全国納豆協同組合連合会によると、業務用を含めて納豆の市場規模は12年から19年まで8年連続で年々拡大し、食べる頻度が増えた理由の1位は「栄養が豊富なので」、2位は「健康効果があるので」だったという。

 人気のある商品には「カルシウムが骨になるのを助ける」「効率よく体内に吸収する発酵コラーゲンペプチド入り」などがある。コロナ禍ではとくに「免疫力アップ」に注目が集まっているが、免疫効果を表示している納豆はまだ発売されていない。

 健康効果以上に、納豆の普及を進めたのが、添付のタレである。昔の納豆はからしがついているだけで、タレが添付されるようになったのは、1980年代の半ばから。昆布とかつお節のだしがきき、ほんのりと甘いタレは、甘口を嫌う納豆好きには当初、評判が悪かった。

 だが、昆布のグルタミン酸、かつお節のイノシン酸が納豆自体のうま味と合わさることで格段に食べやすくなり、それまで食べる人が少なかった西日本にも広く浸透した。その後、においが控えめな納豆も開発されて、苦手な人がますます減った。

 現在、タレにはオーソドックスな昆布とかつお節風味以外に、たまごしょうゆ、ポン酢、キムチ風味、大根おろし入り、しそのり入り、梅風味など多種多様なバリエーションが見られ、なかには焼肉風味の濃厚甘辛味といった、あきらかに若者向けのタレもある。

 近年、若者の和食離れが懸念されているが、味の素の調査データを社会学者が読み解いた「平成の家族と食」(晶文社)によると、あえ物、煮ものなど伝統的なおかずは若い人ほど食べる率が少なくなるが、納豆だけは例外で、全世代で20〜30代が最も多く食べている。

 若者に選ばれる理由としては、価格が安いことと、調理不要でパックのまますぐに食べられることが考えられる。手を汚さないよう工夫された容器やタレ袋など包装面を含め、若者を意識した開発は今後さらに進むだろう。

 6割の人がご飯にのせて食べているようだが、食通で知られた北大路魯山人が勧めるのが納豆雑炊。普通に炊いたかゆに、かゆの量の4〜5分の1の納豆をしょうゆ、からし、ネギを十分に粘るまでかき混ぜて加え、5分もしたら火からおろす。

 こんなに簡単で、調子の高く、廉価な雑炊はなく、さらに上から煎茶のうまいのをかければ「通人の仕事」だそうだ。お試しください。

(Kyodo Weekly・政経週報 2021年2月1日号掲載)

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