アートと大アサリ にぎわう愛知・佐久島 小島愛之助 日本離島センター専務理事
2021.02.01
愛知県西尾市の一色港から市営高速船で約20分、西尾市一色地区から南に約8㌔の距離にあり、三河湾のほぼ中央に位置しているのが佐久島、面積1.73平方㌔㍍、人口234人のアートの島である。
海岸線延長は11.5㌔、最高標高は38㍍であり、島内には河川はない。気候は温暖で、年平均気温は16度前後である。冬季には、降雪はほとんどみられないが、強い季節風が吹くことがある。
島に二つある港の一つ、佐久島西港で下船し少し歩くと、「弁天サロン」という民家風の建物が目に飛び込んでくる。島の出身者から寄付された古民家を修復し、1998年12月に島おこしの活動拠点としてオープンしたものであり、筆者はその完成披露時にお邪魔させていただいた。
完成以来、島おこし活動のみならず、アート展やワークショップなどさまざまに活用されてきており、アートの島・佐久島はここから始まったと言っても過言ではない。
西港周辺には潮風から建物を守るためにコールタールを外壁に塗った民家が多く、この黒壁集落は、ギリシャ・ミコノス島の「地中海の白い宝石」、イタリア・シェナの赤レンガ住居群と対比されて、「三河湾の黒真珠」と称されている。
黒壁集落を通り抜けた石垣海岸には、佐久島を代表するアートの一つ、「おひるねハウス」がある。黒壁集落をモチーフとした黒い色の作品は、2010年に公開された劇場版アニメ「名探偵コナン 天空の難破船(ロスト・シップ)」にも登場、劇中でコナン君と怪盗キッドが訪れている。
島の東西を結ぶフラワーロード沿いには、移住・定住対策として、2012年に整備されたクラインガルテンがある。クラインガルテンは、直訳すると「小さな庭」という意味のドイツ語であり、わが国では宿泊滞在型農業体験施設として、60カ所以上整備されてきているが、離島では佐久島が初めての施設である。
広大な敷地の中には10棟のラウベ棟(宿泊施設)があり、約70平方㍍の菜園がついている。ラウベ棟は約53平方㍍、ロフト付きの木造平屋建てで、年間約50万円の利用料金であるが、オープン以来満室が続いている。
佐久島は、近年、年間10万人の観光客でにぎわいを見せている。島のあちらこちらにアート作品が点在し、「アートに出会える島」として、年齢や国籍を問わず、幅広い層から人気を博しているのである。外国人や女性の観光客は、インスタグラムなどのSNSを駆使して情報を発信してくれるので、それ自体が宣伝効果を有しているというのである。
さて、佐久島の味といえば、何といっても大アサリ(ウチムラサキ、写真=愛知県西尾市提供)であろう。漁師さんが素潜りで採った新鮮な大アサリは、そのまま焼いて食べても良し、トンカツのように揚げて大アサリ丼として食しても美味なのだ。
アサリは春になると産卵に備えて栄養を蓄えるので、春のアサリの味が一番濃厚だそうである。ちなみに、お土産には、対岸の「一色さかな広場」で、一色産ウナギを買われることをお勧めしたい。
(Kyodo Weekly・政経週報 2021年1月18日号掲載)
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