食べ物語

「密」避けて探訪  中川克史 共同通信編集委員

2021.01.25

「密」避けて探訪  中川克史 共同通信編集委員の写真

 立ち食いそばが面白い。

 老齢も視野に入り健康を維持するためにと主治医から1日8000歩を歩くように指示されている。これがなかなか難しい。

 私の場合、通常の通勤の往復は3800歩ほど。帰宅時に出勤時の下車駅より1駅分遠くまで歩き、自宅近くの駅から1駅分手前で降りて歩くとほぼ目標が達成できるのだが、新型コロナウイルス感染症によるテレワークで巣ごもりとなると、これをこなすのはなかなか難しい。そこで実益を兼ねて編み出したのが立ち食いそば探訪だ。

 数年前のことだ。乗り継ぎのために下車した駅近くのガード下でめっぽううまい立ち食いそばに遭遇した。自宅から直行できる駅だが、さほど乗降客は多くないとあって、思い起こして昨秋、昼食時を外し電車がすいた時間帯に再訪した。すっかり味を占めた。

 以後「密」は避けるようにしながらの立ち食いそば店巡りを楽しんでいる。もちろん、本来の目的である歩行は忘れない。店の周辺や往路復路で歩数を稼ぐ。

 何ごとにも先達はいるもので、ネットで検索すれば数多くヒットする。特に基準はつくっていないが、自宅から歩いて行ける店、通勤路沿線の店、職場から歩いて行ける店などから徐々に範囲を広げることにした。

 誰もが知っている大型有名チェーンが複数存在し、味やサービスは侮れない。JR、私鉄はそれぞれ系列のブランドを抱えており、ホームの階段下のスペースを利用した店舗で1杯をすすり終えたところで、頃合いよく滑り込んで来た車両に乗り込むのも醍醐味(?)だ。これを勝手に「乗り鉄」「撮り鉄」ならぬ「そば鉄」と称することにした。

 店構えも立派な、由緒正しい有名そば店がターミナル駅の近くにスタンド形式で出店しているケースもある。味のよい小規模チェーンや独立店に巡り合うのも喜びの一つだ。

 メニューもいろいろ。かき揚げ、イカ天(ぷら)、ちくわ天などがオーソドックスだが春菊や紅しょうがの天ぷらの人気も高い。私もこの2種があればつい注文してしまう。

 先に触れたガード下の店で、紅しょうが天に開眼したせいでもあるだろう。店によっては温かいつけ汁にカモ肉やカキが入ったせいろなど高級店並みのメニューも加わる。最近は大きな鶏の唐揚げのトッピングが一つの流行だろうか。神奈川県の湘南地方ではアジの押しずしといったローカル色豊かなサイドメニューがうれしい。

 やむを得ぬ所用で出かけた地方都市では、新幹線のホーム上の店がコロナによる乗客減で閉鎖されていた。在来線ホームに魅惑的なかつおだしの香りを漂わせていた店舗が、駅舎改造で閉鎖されているなど、探訪では「時」も実感できる。

 滞在時間10分以内の一期一会(再訪する店もあるが)。密さえなければポストあるいはウィズ・コロナに適合した営業形態かもしれない。

 思わぬきっかけで始まった楽しみだが、今後もさまざまな気づきをもらえるだろうか。もとより食べ過ぎで「8000歩」を帳消しにする愚は避けなければならない。

(Kyodo Weekly・政経週報 2021年1月11日号掲載)