食べ物語
ブルゴーニュの冬が恋しい 石田敦子 エノテカバイヤー
2021.01.25

2020年、最初で最後の出張は、1月のフランス・ブルゴーニュだった。ワインの聖地と呼ばれ、絶大な人気を誇る銘醸地だ。
毎年、年に2度ほどブルゴーニュを訪れているが必ず1回は真冬。深々と冷え込み、ものすごく寒いが、生産者とゆっくり会話ができ商談ができる。冬のブドウ畑は、秋の収穫を終え、とても静か。時に雪に覆われている畑の景色が、情緒深いと思えるようになったのは割と最近のことだ。
約1週間の間、1日に6~7件、生産者を巡る。グラスを渡され、セラーへ行き、それぞれの生産者の流儀のもと、それぞれの順番で、たる、タンク、ボトルからワインを試飲する。(写真上:約20年のファンであるドメーヌ・ルーロで。筆者は左から3番目、生産者ジャン・マルク・ルーロ氏が同4番目=2018年12月)
ブルゴーニュは1人の造り手が造るワインの種類が多く、試飲数も必然と増え、一度の出張で200~300種類となる。
訪問する時の服装はとてもカジュアルで、ジーンズ、長靴、ダウンコートが定番。にもかかわらず、心して臨まなければならない緊張感がブルゴーニュにはあり、それは高級レストランへ行くときよりも背筋が伸びる気がしている。
今だから言えるが、私はバイヤーになったばかりのころ、個人的に大好きなブルゴーニュはバイヤーではなく、ワインラバーとして買って飲んでいたいと思っていた。
仕事とプライベートの境目がなくなることが怖かったのか、大好きな生産者に自分の思いを伝えたいと思う一方で、そんな彼らと交渉をしたくない、とでも思っていたのか。
ボルドーを担当しながら経験を積み、ブルゴーニュの買い付けに携わるようになったのは6年前。それが大きな間違いだとすぐに知った。なぜなら、私のボスでありバイヤーでもある廣瀬恭久会長がビジネスマンでありながらも、ワインラバーのまま交渉をしている姿を目の当たりにしたからだ。
「ワインラバーのまま」。もちろん、次の〝ビンテージ〟を買うために、すでに購買したワインをしっかり売らなければならない。目利き、交渉、多岐に渡りさまざまな課題があるが、全部ひっくるめてワインに携わる。その醍醐味に触れ、そもそも公私の境目なんて自分には必要ないものだとわかったのだ。
よく「寒い時期に朝から晩まで、試飲や会食、大変でしょう?」と言われるが、答えはノー。現地やブドウ畑を訪れること、ワインに真摯に向き合い、味わい、感じる。思い切りハト、ウズラ、カモを食べる。
ボスとともに生産者と話ができる時間は最高のエネルギーチャージだ。変化への対応はマスト。ビデオ会議でワインを試飲する機会も増えたが、やっぱりブルゴーニュの冬を恋しく思う。
(Kyodo Weekly・政経週報 2021年1月11日号)
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