見た目は地味でもリッチな味わい 欧州伝統のクリスマス菓子 畑中三応子 食文化研究家
2020.12.21
クリスマスケーキ商戦が佳境に入っている。今年は家でちょっとぜいたくに祝う人の増加が予想されるためか、有名ホテルやデパート、洋菓子店は、例年に増して豪華さを競っているようだ。
予約は10月に始まり、インターネットとカタログでの注文が中心なので、まずは見た目重視とばかり、奇抜で斬新なデザインが多いことに驚く。コンビニも負けていない。ローソンは「鬼滅の刃」、セブン―イレブンは「ラプンツェル」と、キャラクターケーキで話題を集める。
かつてクリスマスケーキは直径20㌢以上が標準だったが、家族構成の変化で、現在は15㌢前後が主流になった。それでも値段は立派で、1万円以上するものも珍しくない。
クリスマスに家族でケーキを食べて祝う習慣は、昭和20年代後半から盛んになったが、色も形も材料も、これほど多彩なケーキが作られるようになったのは2000年代のパティシエブーム以降。年に一度の晴れ舞台として、パティシエが腕によりをかけたオリジナル品を発表するようになってからである。
受け取りは店頭以外に、コロナ禍もあり、冷凍状態で配送され、家で解凍するタイプが増えているのが今年の特徴だ。これまで生ケーキの冷凍には抵抗感を抱く人も多かったが、実際には冷凍で品質が落ちることはなく、この傾向は今後も続くだろう。
華美なデコレーションが注目される一方で、じわじわと愛好家が広がりつつあるのが、ヨーロッパの伝統クリスマス菓子である。(写真:大皿の左奥はポーランドのピェルニキ、筆者撮影)
その代表格が、ドイツ発祥のシュトーレン(写真手前)。岩のようにゴツゴツしたナマコ型のかたまりが、粉砂糖にすっぽりと覆われている。
この姿は、おくるみに包まれた生誕後のキリストを表している。日持ちがし、クリスマスまでの数週間に少しずつ食べ、熟成して味が変化していくのを楽しむものだ。
中身はイーストで発酵させたパン生地に、ドライフルーツやナッツを練り込んである。焼きたてを溶かしたバターに浸け込み、しみこませるのが独特だ。高級品は、中心にローマジパン(粉末アーモンドと砂糖を練り合わせたペースト)を巻き込んであり、ひときわ香り高い。
もうひとつが、イタリア発祥のパネトーネ(写真後ろ)。卵たっぷりの甘いパン生地にドライフルーツを混ぜて丸く焼いたもので、シュトーレン以上に飾り気がない。
発酵には通常のイーストに比べて桁外れの保水・防腐効果を発揮する酵母を用いるため、長期間しっとりした食感が保たれる。
イタリア以外では、この酵母の特性を完全に保ちながら使い続けるのは難しいそうだ。イタリア製パネトーネの賞味期限は、保存料無添加でも6カ月と驚くべき長さである。
また最近は、ヨーロッパの各地に伝わるクリスマスクッキーをよく見かけるようになった。イギリスではジンジャーブレッドメン(写真:大皿の右奥)、ドイツではレープクーヘンと呼び名はいろいろだが、みなスパイスをきかせ、日持ちすることが共通している。
これらの伝統菓子からは、普段は質素に暮らす庶民が、卵や砂糖といった高価な材料を奮発し、キリストの誕生を祝した「ハレ」の気分が伝わる。見た目は地味で素朴だが、実はリッチな味わい。そんな奥ゆかしさが、受けている理由かもしれない。
(Kyodo Weekly・政経週報 2020年12月7日号掲載)
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