家庭でもオススメは一人鍋? 消えた"鍋を囲む風景" タカコナカムラ ホールフード協会代表理事
2020.11.30
冬の料理といえば「鍋料理」ですが、家族や仲間たちと鍋をつつきながら一杯という風景は幻となりつつあります。
コロナ禍で、忘年会も激減、鍋料理は一人ずつ小さい鍋で食べるようになり、鍋を囲む風景が消えたのではないと考えています。(写真:ホールフード協会提供)
鍋料理が近年、激変していると感じています。鍋の定番、みそ味、しょうゆ、水炊きから、カレー、トマト、豆乳、キムチへと"無国籍化"している鍋つゆの素。
数年前から、市販の鍋のもとは、4人分から2人分、そして今年は1人分が人気となっています。それは家庭内感染予防のためではけっしてありません。
かつて、大きな土鍋はどこの家庭にも常備していたと思います。
しかし、都市部を中心に、家族だんらんが消え、晩ご飯の時間もバラバラとなり孤食が当たり前のようになり、大きな土鍋は売れなくなりました。
小学生の弟は帰宅したら、軽食を取り、いざ学習塾へ。または、弁当持参で塾へ向かい、帰宅は9時すぎ。中学生の兄は、自分の部屋で食べるといい、のっけご飯(丼におかずを乗せたもの)にして一人夕食(のっけご飯は部屋に持っていきやすいメニューとしてすっかり定番ですね)。
母親はスマホを操作しながらダイニングテーブルでのんびり一人夕食。遅く帰宅する父親は、お盆に乗せられる範囲のおかずと缶ビールを持ってテレビの前で一人晩酌。これでは、家族だんらんで鍋なんかつつくことができません。
若い人たちと鍋料理を囲んだとき、大皿に盛り付けられたハクサイ、ネギ、きのこ、肉や魚、うどん、餅などをどれから入れていいかが分からない人が増えています。
思わず「鍋料理、したことないの?」と聞くと、ほとんど「家ではしません。鍋って外で食べるもんでしょ」と言われ、がくぜんとしました。家で食べたことがないため、何から入れていいのかが分からない上、「食べたいものからでいいよね」と、いきなり餅を入れた若者には驚いてしまいました。締めのうどんも雑炊の作り方すら知らないとは...。
なぜ部屋で食事をすることを許し、別々のメニューで晩ご飯を済ませることを良しとするのか不思議でなりませんでした。
このような家庭は特別な事情のある家庭ではなく、ごく普通の、いや、普通以上に、教育熱心で"勝ち組"を目指している家庭であると想像できます。
鍋関連食品メーカーの商品開発は、もう分かっていますね、鍋の素は一人様用に力を注ぎ始めています。母親は水炊きで、子供はカレー鍋。父親はキムチ味。
なぜ、別々の鍋を許しているのか?
良しとする主な答えは、「個性を大切にしたい」。えっ?個性?鍋はみんなでつつくものでしょ〜と叫びたくなりました。
鍋をつつきながら、その日の出来事を話し、食事の作法や家族の好みを知る。「今日はこんなものを入れてみた」「俺、しいたけ苦手〜」「締めは卵雑炊にして」などの会話も楽しめるのが鍋を囲む楽しさではないのだろうか。
だから、私は一人では鍋料理を食べる気がしません。
コロナ禍となり、一人様鍋に拍車が掛かり、家族は、好きな鍋を小さい鍋で食べるのが感染予防策としてオススメの食べ方になり、それは、大きな鍋を家族でつつき合う冬の風景を消してしまうのだと思います。
東京都知事ですら会食時の「5つの小」(少人数、小皿など)をスローガンにしています。
今年は鍋料理も、小さい鍋で、一人ずつね。
個性を尊重して好きな味の鍋つゆの素を用意することが定番になってしまうのでしょうか。
筆者は料理家のタカコナカムラさん。安全な食と暮らしと農業、環境を「まるごと=whole(ホール)」考えて活動する一般社団法人「ホールフード協会」の代表理事です。
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