「和牛の羊肉」ってなに? 謎の都・豪キャンベラの和食事情
2020.11.17
オーストラリア・キャンベラの和食事情について、同地にある在豪日本大使館の経済班・広報文化班が報告する。
農業に関するトリビアを御紹介したいと思います。キャンベラは、シドニー、メルボルン間でややシドニー寄りに位置する人口35万人の首都です。政治と行政の中心ですが、商業や観光では目立たない存在で、出張などの特別な理由がなければ訪問する機会のない「謎の都」とも言えます。
そんなキャンベラですが、数カ所にショッピングセンターが集約されており、ワンストップショッピングが可能です。意外なことに、日本食材を取り扱う店舗は豊富で、Made in Japanのコメ、味噌、醤油、各種調味料のほか、インスタントラーメン、清酒、ウィスキー、焼酎なども種類は限られますが、手に入れることはできます。
ただし、オーストラリアの酒税の関係で、日本では身近な存在の蒸留酒がちょっと勇気のいる価格で販売されているので、自然と日本よりも大切に飲むようになります。
「和牛の羊肉」とはいかに?
キャンベラで入手が難しいのは、2018年から輸入解禁となった「和牛」です。シドニーやメルボルン等の日本食材店や日本食レストランでは和牛を目にする機会も多いのですが、キャンベラの食肉店やレストランでは「豪州産Wagyu」が主役です。
例えば日本国内ですと、黒毛和種など和牛4品種の純粋種とこれら4品種間の交雑種(両親とも和牛)の牛から生産された牛肉のみが和牛と表示可能となっており、店頭に表示されている10桁の個体識別番号をスマホで検索すると、生年月日、食肉処理日、品種、性別、生産農場等の履歴が確認可能で、和牛かそうでないかも一目瞭然です(日本の法律に基づく日本の制度です)。
(写真:各地のしゃぶしゃぶ専門店で出される和牛(左)と、キャンベラの量販店で販売される豪州産Wagyu)
一方、豪州産Wagyuは、1990年代にわずかに輸出された和牛や凍結精液の末えいとされるもので、少なくともWagyuの血が50%以上(少なくとも片親がWagyu)であれば、豪国内の店頭でWagyuと表示されており、品質も幅があると言われています。
また、このWagyuという用語は、今日では語源から大きくそれ、「美味な食肉」という意味に変質してしまっており、「Wagyu lamb」(lamb:ラムは子羊の肉)と、もはや日本人の私たちには理解不能な商品まで出現しています。
日豪で決定的に異なることは?
さて、日本と豪州では、「左側通行」「水道水が飲用に適する」「飲食店などでチップが不要」など共通点も多いのですが、牛肉の生産過程では決定的に異なる部分があります。
それは、乳牛から生まれた雄子牛の取扱いです。両国とも乳牛は1年1産を基本としており、通常の人工授精では雄と雌の出生割合がほぼ1:1になります。
もっと言うと、人工授精から約280日(ほぼ十月十日)で分娩しますので、我々人間から見ても親しみやすいです。雌子牛は次期の乳牛として育成されますが、ミルクを生産できない雄子牛は、日本では、貴重な肉資源として大切に育てられ、一般家庭の食卓に上る「国産牛」として流通します。
ところが豪州では、雄の子牛は商品価値がないとみなされ、出生後わずか数日でその短い生涯を終え、食品等の原料となる運命が待っているのです。
この牛の性別による運命の違いを題材として、5年ほど前に日系食品メーカーが擬人化したCM(卒牛式)を公開し、物議を醸したことがありますが、視聴した後に残る複雑な感情は、カズオ・イシグロ氏の代表作「わたしを離さないで(Never Let Me Go)」を読み終えた感覚に近いものがあるかもしれませんね。日本人読者が、和牛とオージービーフのそれぞれの良さを楽しむ際の参考としていただければ幸いです。
さて、毎年春になると大使館にはカルガモの一家が訪れ、多くの館員の心を和ませてくれます。(写真上)
今年もスクスクと成長する子ガモ達、道路を渡ってお隣のタイ大使館に遊びに行くのですが、車が来ないかハラハラしてしまいます。(文・写真 在豪日本大使館経済班・広報文化班=特別寄稿)
(オセアニア農業専門誌ウェルス(Wealth) 10月23日号掲載)
【ウェルス(Wealth)】 NNAオーストラリアが発行する週刊のオセアニア農業専門誌です。
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