食べ物語

〝魔法〟のひじき  小島愛之助 日本離島センター専務理事

2020.10.12

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〝魔法〟のひじき  小島愛之助 日本離島センター専務理事の写真

 大分県の姫島は、国東半島の北約6㌔、瀬戸内海の西部、周防灘と伊予灘の境界に位置する島であり、全島で東国東郡姫島村を形成する一島一村の島である。

 国東半島側対岸の国東港伊美地区(大分空港から車で約40分)との間に定期航路があり、姫島村営フェリーの姫島丸(所要時間20分)が1日12往復就航している。

 古事記によると、伊邪那岐命と伊邪那美命のニ柱の神が「国生み」に際し、大八島を生み出した後、11番目に大島(山口県周防大島)を生み、次に女島を生むとあるが、この女島が姫島であり、別名を「天一根」と呼ばれているということである。

 姫島は東西に細長い島であるが、中央にそびえる最高峰の矢筈岳(266㍍)と西の達磨山の間のくびれた平地部に、北浦、西浦、南浦、松原といった中心集落が形成されており、その南岸に姫島港がある。また、北岸には、塩田跡地を利用して始められた大分県の代表的な特産品「姫島車えび」の大規模な養殖場がある。

 約30万年前に始まる七つの火山の爆発によって形成されてきた姫島には、多くの珍しい地層があり、「地質の博物館」と称されてきたが、2013年に島全体が「おおいた姫島ジオパーク」として、日本ジオパークに認定されている。

 さて、この姫島で、毎年12月、1年でわずか2日間だけの漁期に柔らかな新芽のみを摘み、天日干しで仕上げたのが、今回ご紹介する「幻の2日ひじき」である。水で戻しただけで食べることができ、その食感はシャキシャキとして爽やかな海草の風味も豊か、煮物(写真)にしても煮崩れをしないという魔法のようなひじきといえる。

 一般的なひじきの収穫時期は、「春ひじき」といって、3月から4月だとされている。この時期のひじきは、茎が固く、「芽ひじき」と呼ばれる葉の部分が好まれる。また高級品とされる「寒ひじき」でさえも、収穫時期は1月から2月であるが、姫島の「幻の2日ひじき」は、さらに早い12月に採取されている。

 「幻の2日ひじき」は、島で代々継承されてきた「大釜薪炊き製法」で作られている。採取してきたひじきを選別し一度大釜で荒炊きし、そのひじきを丁寧に水洗いして炊き上げることによってシャキシャキとした食感が生じる。さらに冬の太陽と大自然の風により少しずつ乾燥させることによって、やわらかな仕上がりになるという。

 実は、姫島は空き缶回収の「デポジット制度」の先進地域としての評価が定着している。また、早くから、村内に雇用を創出するために行政ワークシェアリングを導入し、若年層の流出を防ぐ人口減少対策として注目を集めてきた。

 さらに、「姫島ITアイランドセンター」を設立し交流人口の拡大に努めるなど、まさにポストコロナ時代のリモートワーク移住を先取りしているような印象を感じる島である。

 ところで、「幻の2日ひじき」、近年は百貨店の催事場で見かけることが多い。もし実演販売に遭遇されることがあれば、ぜひ煮物を味わっていただきたい。

(Kyodo Weekly・政経週報 2020年9月28日号掲載)

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