次のブームはレモネード? 畑中三応子 食文化研究家
2020.09.21
タピオカブームもすっかり沈静化した。次に流行するといわれているのがレモネードで、各地に専門店が出現している。レモン果汁に砂糖や蜂蜜で甘みをつけ、水で割ったドリンクだ。炭酸水で割るとレモンスカッシュになる。(写真はイメージ)
実はレモネード、幕末にペリーの黒船によってもたらされた清涼飲料水第1号である。
当時は「レモン水」と呼ばれ、明治前期に活躍したジャーナリスト、実業家の岸田吟香が銀座に開いた薬局で大々的に売り出し、1876(明治9)年、東京日日新聞に新聞初の2ページ見開き広告を出したことは有名。吟香によるキャッチフレーズ「清涼甘美」は、広告史に残る名コピーである。
昭和の喫茶店では定番メニューだったが、忘れられていたレモネードが再び脚光を浴びているのは、見るからに爽やかでSNS映えがすることと、ビタミンCが豊富で健康的なイメージによる。
だが、それ以上に大きいのが近年、国産レモンが人気を集め、レモン自体の品質を見直す機運が高まっていることだろう。
いかにも西洋風の香りがするが、レモンの原産地はインド東部のヒマラヤ地方。日本に導入されたのは明治初期で、アメリカから種苗を輸入して和歌山県や静岡県、小笠原諸島などに植えたらしい。
現在、国産レモンの主要産地である瀬戸内海の島々では、広島県・大崎下島で明治30年代に栽培がはじまった。
レモンの生育に最適な温暖・小雨の気候に恵まれて、栽培は広島と愛媛にまたがる芸予諸島のほとんどの島に広がり、戦前の最盛期には全国生産の70パーセントを占めた。ミカン1箱が3円だった時代に100円で取引され、農家はおおいに潤ったという。
生産量は右肩上がり
戦後も各地で栽培が続けられたが、1964年の輸入自由化で壊滅的な打撃を受けて国産レモンの生産量は激減、消費のほとんどがアメリカ産で賄われるようになってしまった。
ところが、輸入レモンに使われる防カビ剤や残留農薬への不安から再評価されるようになり、この20年で生産量は右肩上がりで急増している。なかでも広島県産は「瀬戸内レモン」のブランド名で呼ばれ、洋菓子作りのプロたちにも評価が高い。(写真下:広島県産の菓子や調味料などの瀬戸内レモン商品。もみじまんじゅうもレモン味が人気=筆者撮影)
東京・麹町「パティシエ・シマ」シェフ、日本洋菓子協会連合会会長の島田進さんによると、瀬戸内レモンの魅力は「防腐剤やワックスを使用していないので安心してピール(皮)を使え、なんといっても島ごとに味が違い、それぞれが非常に個性的なところ」だという。パティシエたちは、自分が出したい味に合わせて、使い分けているそうだ。
香りと酸味ともに強烈な野趣あふれるタイプがあると思えば、土地のミカン類と交配して糖度が高く酸味がおだやかなタイプもある。島田さんはレモン唯一の登録品種である大崎上島産「宝韶寿」を愛用している。
国産レモンの収穫は秋からはじまり、旬は冬だ。最近はスーパーにも並ぶので、清涼甘美で安全なレモネードを手作りしてみてはいかが?
(Kyodo Weekly・政経週報 2020年9月7日号掲載)
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