農業経営調査の分析 東京農大総研 鈴木充夫
2024.06.15
山形県川西町の農家に、国の農業競争力強化農地整備事業(中山間地域型)についてヒアリングした。中間管理機構等による担い手(認定農家)への農地集積・集約化や生産効率の向上を目的とする事業で、全農地面積に占める担い手利用面積割合の目標を80%にしている。事業規模は、受益面積243ha、総事業費53億7500万円、事業費のうち国が55%、山形県27.5%、川西町10%、地元負担が7.5%である。
この事業は、図に示した施工前のA、B、Cのような不定形な3枚の圃場(ほじょう)の畔(あぜ)を外し、施工後、1枚当たり1haの大区画にすることである。大区画にすれば機械作業の効率化が達成され、さらに、対象地域の農地集積が進めば集約化によりコスト削減につながる極めて合理的な政策だ。
しかし、これを現場で実施するとなるといくつかの課題がある。第1の課題は、図に示したように1haの圃場に何人かの地主が混在しており、基盤整備後の耕作者を誰にするのかについては、農家間の総合的理解が必要となることだ。
第2の課題は、基盤整備後には、農地評価が変化することだ。3枚の三角形の圃場が1haの圃場に代われば農地価格は変化する。その時に、借地料も含め地主と耕作者との間の調整をどうするのか。これらの課題は、米価が下落している現在、7.5%の地元(農家)負担と密接に関係している。
施工後の農地が担い手(認定農業者)へ集積し集積面積が80%に達すれば、補助金として「促進費」を受け取れるので、10aあたり5万円(施工委員会経費と改良区への拠出金等)の負担ですむが、担い手集積が不調の場合は最大で10aあたり16万5000円の負担が発生する。そのために、土地改良区では、農地評価のための農地評価員と農地集約を支援するための農地換地委員を任命し対応しようとしている。
しかし、ヒアリングした事業の場合、受益面積243haに占める担い手(認定農業者)利用面積の割合を目標の80%に集積するのはなかなか難しいようだ。その理由は大きく2つある。
1つは、農地を集約し大規模に耕作している農業法人はこの地区では2法人しかなく、また、これらの2法人は補助金でどうにか経営を維持しているということである。確かに、2021年の農家経済調査をみると50ha以上の水田作経営では、経常利益1163万6000円となっているが、このうち営業利益(農業利益)は2431万3000円の赤字であり、補助金を含む営業外収入が3645万4000円となっていて、これでどうにか黒字になっているのだ(本稿②を参考)。
2つは担い手(認定農業者)ではない農家も、農業機械を保有しているので、施工前の三角形の圃場では効率が悪かったが、施工後1haに圃場整備されたら、自分で耕作したいという農家本来の心の要求があることだ。
国は2021年5月に「人・農地など関連施策の見直し」を発表し、その中で、「農地を将来にわたって持続的に利用すると見込まれる人」として、多様な経営体等(継続的に農地利用を行う中小規模の経営体、作業・機械を共同で行う等しつつ農業を副業的に営む半農半Xの経営体など)を、認定農業者等とともに積極的に位置付け、その利用を後押しするとし、現場で取り組みやすい環境を整備しつつ、地域で、それぞれの状況を踏まえ、農地を具体的にどのように利用・活用していくのか、農業生産をどのようにしていくのか等を話合った上で、農地の集約化に重点を置いて、地域が目指すべき将来の具体的な農地利用の姿(「目標地図」)を明確化する(農林水産省資料)」としている。
今回の山形の基盤整備事業では、前述したように、基盤整備後の農地の80%が担い手(認定農業者)へ集積すれば、農家に「促進費」が支払われることになっているが、この仕組は「中小規模の経営体」を認定農業者等とともに積極的に位置付けるとした政策とはかなり異なっているように思える。(特別寄稿:「基本法改正と日本農業」は今回で終了します)