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農地集約を目標とした人・農地プランの法制化  東京農大総研  鈴木充夫

2024.06.01

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農地集約を目標とした人・農地プランの法制化  東京農大総研  鈴木充夫の写真

 国は農地の集積を促すため「10年後に目指すべき農地の効率的・総合的な利用の姿を明確化した地域の目標地図の作成」を法制化した。目標地図は、国のeMAFF地図*を基本に「農地の集約化に重点を置いて、生産の効率化等に向けた利用関係(農作業受委託を含む)の再構築を通じて目指す具体的な農地の効率的・総合的な利用の姿を表したもの」と規定している。つまり、誰が誰の農地を耕作するのか分かるようにすることが目標地図の狙いだ。

 しかし、現実には、この「目標地図の作成」には大きな問題がある。目標地図を作成するためには、対象農地の1筆ごとの圃場(ほじょう)とその圃場の所有者や耕作者、転作作物などが記載された農地台帳が1対1で繋がっていることが基本条件となる。しかし、多くの場合、圃場ポリゴン(面データ)と台帳は1対1で繋がっておらず、この基本条件が満たされていない。

*eMAFF地図
農地台帳、水田台帳等の農地の現場情報を統合し、農地の利用状況の現地確認等の抜本的な効率化・省力化などを図るため「農林水産省地理情報共通管理システム」で用意したデジタル地図のこと。

デジタル地図の構造上の問題
 デジタル地図は区画を示す圃場と台帳に記載された地名・地番を1対1でマッチングし、GIS(地理情報システム)のソフトで地図上に表現できる構造になっている。


表-1 ポリゴン(圃場の面的情報)と台帳に記載されている情報の例

表3-1.png

 表-1の事例では、圃場ポリゴンに記載されている地名・地番(久留間85、86)情報と農地台帳の地名・地番(久留間85、86)情報は1対1に対応しており、また、面積も同じ(5174、4673)だから、GISソフトを使い、図-1のように圃場が特定でき、さらに、地図上の圃場、例えば大字久留間85をクリックすると、それに対応した台帳データ(5174、大豆、転作)を検索できる。

表3-2.png

図-1 ポリゴンと台帳が1対1で対応した事例

 しかし、利用できるデジタル地図の多くは、表-1と図-1で示したように1対1で対応していないのが現実だ。以下、圃場ポリゴンと台帳が1対1で対応していない事例を紹介する。

事例1 同じ場所に6筆の圃場はあるが、これに対応する台帳データはない。

表3-3.png

 久留間605はポリゴンと台帳(面積は共に669a)があるので1対1に対応しているが、久留間606、607、608、609-1、610-1、611-1の6つの圃場ポリゴンは地図上では同じ場所に存在しているが、これらのポリゴンに対応する台帳情報はない。


事例2 耕区と現況が違う。たとえば、同じ場所に圃場が4つあるのに台帳が3つしかない。

表4-2.png

 圃場ポリゴンに記載されている地名・地番情報には久留間7-1、7-2、8-3、9-2とあるが、台帳には3つの圃場ポリゴンの地番(久留間7-2、8-3、9-2)しかない。これをGISで確認すると、三角形で示された同じ圃場に4つの圃場ポリゴン(久留間7-1、7-2、8-3、9-2)が重なっており、うち3つの圃場ポリゴンの地番(久留間7-2、8-3、9-2)は台帳の地番に対応しているが、地番7-1の台帳はない。一方、4つの圃場ポリゴンのGIS計算上の面積は約2062aであり、3つの台帳の面積合計は2013aであるので、久留間7-1の圃場は農地として利用されず、また、残りの3筆は、畔(あぜ)を外し1筆として使っていると予想されるので、これについては現地での確認が必要となると考えられる。

 このように現場にある圃場ポリゴンデータと台帳データには様々な問題がある。この問題を解決するためには、農業委員会を含めた地元の現地コーディネーターが、圃場ポリゴンと台帳の特徴をしっかりと理解し、圃場ポリゴンと台帳のマッチングが効率的かつ低価格にできるような仕組みを考えることが必要となる。この問題を乗り越えなければ、本当に役に立つ地域としての目標地図の作成、すなわち、農地の集約化は難しいことになると予想できる。(次回は6月8日掲載)