「研究紹介」有機農業の深刻な危機 農林水産政策研究所レビュー(No.115=2023年9月31日)
2023.10.10
欧州の農業政策をリードし、2027年までに耕地面積に占める有機農業の取組面積の割合を全農地面積の18%(22年は10.7%)に拡大するという意欲的な目標を掲げているフランスで、有機農業の普及が鈍化している。
最大の要因は、昨年来のインフレだ。食品価格の高騰に対応するため、消費者は価格が高い有機栽培の農産物を買い控える動きを強めている。ただ、「有機離れ」の背景には構造的な要因があり、一時的な現象ではない恐れがある。
農林水産政策研究所の須田文明・同上席主任研究官は、同研究所のレビュー(No.115=23年9月31日)に掲載された「フランス農政が直面する課題:有機農業と畜産を例に」の中で、「有機農業の深刻な危機」を指摘している。フランスの消費者は、食品を選ぶ時に「有機」であることよりも、「ローカル産品」「国産」「栄養表示」などを重視する傾向を強めているというのだ。
「本当に有機かどうか疑わしい」という表示に対する不信感に加え、有機農業は大規模生産による生産の集中化、モノカルチャー(単作)化、消費者との距離の拡大など、従来の慣行農業と本質的な部分で同じ課題を抱えている。こうした問題を「(有機農業の)慣行化」と言うそうだ。
日本の農林水産省は21年5月に「みどりの食料システム戦略」を策定し、50年までに耕地面積に占める有機農業の取組面積の割合を25%(約100万ha、21年実績0.6%)に拡大することを目指しているが、「有機なら何でも良いのか」という本質を考えさせてくれる研究だ。