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農業センサスからみた農業法人と家族農業 東京農大総研 鈴木充夫

2024.05.18

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農業センサスからみた農業法人と家族農業 東京農大総研 鈴木充夫の写真

       (基盤整備後の圃場=山形県川西町)

 食料・農業・農村基本法の改正案の審議が参議院で大詰めを迎えている。改正案は、食料の安全保障の確保を基本理念に追加した上で、「将来にわたって、良質な食料が合理的な価格で安定的に供給され、かつ、国民一人一人がこれを入手できる状態をいう」(改正案2条)と定義した。

 また、食料安保の確保のために、同条4項で「食料の供給能力の維持が図られなくてはならないと」とし、現行法27条(専ら農業を営む者等による農業経営の展開)に新たに2項として「国は農業を営む法人に経営基盤の強化を図るため、その経営に従事する者の経営管理能力の向上、雇用の確保に資する労働環境の整備、自己資金の充実の促進その他必要な施策を講ずるものとする」を加え、法人経営を後押しにする姿勢をより明確にした。

 ここでは、現行法27条に追加した「農業を営む法人」の経営基盤について、食料供給が企業的・経営的に展開されているのか、農業センサスを用いて検証する。

        表1 法人化と非法人化の農業経営体数

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       資料:農林水産省「農林業センサス 」より

 表1は農林水産省の農業センサスの法人組織等と個人経営体を合わせた農業経営体数を示したものである。この表から、農業経営体数は2015年の137万7266戸から20年にかけて107万5705戸へ減少していること、15年の農業経営体数137万7266戸のうち、法人経営体数(農家以外の農業事業体及び農業サービス事業体も含む、以下同じ)は2万7101戸と全体の1.97%に過ぎず、残りの134万9937戸は法人化していないことが確認できる。

 また、20年の農業経営体数107万5705戸のうち、法人経営体数は3万707戸と全体の2.85%と僅かに増加したのに過ぎず、残りの97.1%の104万4854戸は法人化していない家族経営体だと分かる。この数字から、日本農業は、依然として、家族農業経営が中心であることが確認できる。この数字は何を意味しているのだろうか。

「理性的なものは現実的、現実的なものは理性的である」と言う哲学者ヘーゲルの言葉から、「存在するものは合理的である」という解釈が生まれた。これを日本の農業に当てはめると、法人経営体よりも家族経営体の方が合理的だと言うことになる。現場の農家は、自分たちの経営を、株式会社を含む法人化にしてもメリットがないと考えている。なぜ、メリットがないのか。次回以降、この疑問について、国の「農業経営統計調査」等を用いて分析する。(次回は5月25日掲載

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 寄稿「基本法改正と日本農業」は、東京農大元教授による5回続きの連載です。食料・農業・農村基本法の改正を踏まえて、経営規模の拡大を目指す法人経営の課題について5回にわたって論じます。連載記事は本サイトのアグリサーチのページでご覧頂けます。


 鈴木 充夫(すずき・みつお)1950年千葉県生まれ。東京農業大学、九州大学大学院(修士課程)を経て80年東京農業大学大学院(博士課程)修了。農学博士。北海道東海大学教授、米国ミズーリ大学客員研究員、東京農業大学教授などを経て、2018年から東京農業大学総合研究所総研研究会常任理事。主な著書に「野菜の価格形成と産地展開」(東京農業大学出版会)、「コメ輸入自由化の影響予測」(富民協会)など。