「ご存じですか」飼料の世界 食料考える手掛かり AFCフォーラム冬1号から
2023.01.30
新型コロナ禍やウクライナ情勢を受けて、食料の確保に対する関心が高まり、岸田文雄政権は昨年末に「食料安全保障大綱」を策定、食料・農業・農村基本法の改正に向けた見直しにも着手した。いずれも私たちの生活に直結する重大な課題だが、相変わらず「日本の食料自給率(カロリーベース)は主要国の中で最低」という、単純化された議論が多いのは残念だ。
カロリーベースの自給率を偏重する弊害はいくつもあるが、中でも問題が大きいのは、コメという最終的な財だけに着目し、生産に至るまでの原料や中間財の海外依存が数値に反映されず、いわば「虚像」を提示していることだ。例えば、コメの自給率は90%を超えるが、その生産に必要な肥料や農薬、農機を動かす燃料の自給率はカロリーベースだとまったく反映されない。
この「虚像」に基づく結果、「コメはひとまず安心」などという錯覚を招き、コメの生産を減らす政策が続いている。食料の安定供給は、極めて高度に複雑化した食料システム全般に目を配り、備蓄や輸入、消費パターン、労働力の確保なども含めて全体を底上げしていくアプローチが必要だ。
食料安保大綱や基本法見直しの検討会で、ようやく飼料や肥料など中間財の重要性が本気で論じられるようになったのは、一歩前進だ。しかし、飼料・肥料はこれまでの長すぎた「黒子役」のため、ほとんど実態が知られていない。一から勉強したいと思っても、どこから手を着けてよいのかさえ分からない。
その手掛かりとして参考になるのが、日本政策金融公庫の月刊誌「AFCフォーラム」の短期集中連載(全3回)「ご存じですか『飼料』の世界」だ。最新刊(2023年冬1号)の1回目「配合飼料と私たち」は、飼料は畜産業とつながっているだけではなく、人が利用できないものを再利用することで生態系の循環を担っていることを、分かりやすく説明している。人体の血液循環に例えると「静脈」の役割を果たしている。
日本はその重要な飼料の大半を、特定の国からの輸入に依存している。食料安保や基本法に関する議論が、こうした基礎知識を踏まえて展開されることを期待したい。連載の担当著者は、協同組合日本飼料工業会の石川巧・事業部長兼安全プロセス推進室長。