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「書評」成長産業化の阻害要因をあぶり出す  「誰が農業を殺すのか」(窪田新之助、山口亮子)

2023.04.18

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「書評」成長産業化の阻害要因をあぶり出す  「誰が農業を殺すのか」(窪田新之助、山口亮子)の写真

 一般紙の農業に関する報道が減っているのに比べると、書籍、特に新書による情報発信は活発だ。一般紙の場合、批判される側の主張を聞き、紙面上もバランスをとるのが原則だが、書籍はそのような条件を必要としない自由さがあり、多様な側面を持つ農業を伝える手段として適しているからだろう。

 ただ、最近の新書には「農業消滅」「日本が飢える!」など、危機感をあおる悲観的なタイトルが多い。本書の帯は「返り血覚悟で記した農政の大罪」とさらに過激だ。著者の2人は、いずれも大手メディアを退職したフリージャーナリストで、中国や日本の現場を丁寧に取材しているだけに、逆効果だ。

 本書は、日本で開発された優良品種が中国や韓国に流出している問題や、国際的なコメ相場の形成の主導権を中国が握る恐れがあることなど、ルポを通じて農業の成長産業化を妨げている要因をあぶり出している。

 本書のタイトルの答えは「農業は守ってしかるべきであるという旧来からの認識を変えられない農業関係者」であり、「日本の種を守る会」や山田正彦元農相、鈴木宣弘東大大学院農学生命科学研究科教授らを名指しで批判している。

 批判された側にとっては、気の向かない作業かもしれないが、無視するのではなく、反論して議論を深めてほしい。一方的な報道は、それに共鳴する人が同質の情報だけを読むという悪循環を招き、ますます分断を深める恐れがあるからだ。新潮新書、946円(税込み)