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「書評」改めて食料安全保障を考える  「日本農業の動き217」(農政ジャーナリストの会)

2023.02.09

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 新型コロナ禍、ウクライナ戦争、円安などを背景に食品の値上げが相次ぎ、食料安全保障に対する関心が高まっている。

 農政ジャーナリストの会は、宮城大学の三石誠司教授、森山裕元農相、株式会社さかうえ(鹿児島県志布志市)の坂上隆代表取締役、全国農業協同組合連合会(JA全農)の日比健耕種資材部長の4人を講師に、連続勉強会を開催した。本書はその採録だ。

 研究者や現場からの報告はいずれも興味深いが、中でも森山元農相の講演は、食料安保大綱や食料・農業・農村基本法の見直しが自民党主導で展開されていることを示唆しており、今後の政策を予見する上でも重要だ。

 講演時点(2022年5月30日)で、肥料価格の高騰対策はもちろん、米粉の利用拡大、食料安保大綱の策定、農産物価格に関するフランス法制の研究、基本法改正案の国会提出日程まで言及し、今のところ予算措置を含め「森山カレンダー」の通りに進んでいる。

 今後も、森山元農相の「予言」に沿って展開するならば、食料安保に関する政策は「国内生産基盤の強化」に収れんする恐れがある。しかし、国内生産の強化だけでは食料安保は達成できない。この懸念を分かりやすく説明しているのが、巻頭の「食料安保の再構築へ向けた論点」という解題であり、本書の最も読み応えのある部分だ。

 執筆した農政ジャーナリストの会の行友弥会長は、「国内生産を強化し、輸入依存を脱することが食料安保といった紋切り型の言説が通用しない現実」を指摘し、「食料供給基盤を脅かすリスク要因が増え、しかも複雑に絡み合っている」と分析する。

 その上で「食料安保を自国民の食料を確保するという狭量な意味で使うのは日本ぐらいだろう」「真のフード・セキュリティは一国単位では実現し得ず、産業政策の枠組みで捉えきれない」とグローバルな視点の必要性を訴えている。

 そうであるならば、わずか4人の講演録で「食料安保を考える」のは無理がある。国際機関の関係者はもちろん、環境政策や食料援助の担い手、食育など教育の現場などからも講師を招き、食料安保について幅の広い視点を提供することを期待したい。日本農業の動き217号(改めて食料安全保障を考える)は農山漁村文化協会(農文協)発行、税込み1320円。