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「書評」農業の法制度を学ぶ  「ビジネスパーソンのための日本農業の基礎知識」(奥原正明)

2022.11.01

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 ロシアによるウクライナ侵攻や円安を背景に、農業をめぐる状況が変化しており、農林水産省は農業政策の憲法ともいわれる「食料・農業・農村基本法」の検証作業を始めた。

 しかし基本法のどこに問題があり、どのように改めるのかという具体的な議論を深めるのは容易ではない。食料や農地に関する法律には長い歴史と背景があり、とても複雑だ。農業政策は米麦、畜産、果樹、園芸など品目ごとの縦割りが徹底しており、法律の数も多く、それぞれの生産・流通現場について知識がないと理解できない。基本法の改正に踏み込む前に、農業政策の歴史と現行の法制度を学ばなければ、とても太刀打ちできる課題ではない。

 本書は戦後の農地改革や、食糧管理法の廃止など、戦後の農政の歴史を踏まえて法制度を解説した手頃な入門書だ。

 著者は安倍晋三政権下で農水省の経営局長や事務次官を歴任し、農業の成長産業化を促した。本書でも農地の集約化を目指す農地バンク法、農協法改正、全国農業協同組合連合会(JA全農)にビジネスモデルの転換を促した「農業競争力強化プログラム」など、自身が関わった制度に焦点を当てており、高い経営力と生産技術で農業に関わろうとするビジネスパーソンを支援する手引書でもある。

 現役官僚の時の著者の口癖は「やるべきことをやっていない」だった。農政上の課題のほとんどは、基本法を含む法令を踏まえて誠実にきっちりと対応すれば必ず解決できるという信念で、法律と向き合っていた。著者の強い自負を感じさせる一冊だ。

 ただ本書の帯に「食料安全保障を考える経済人必読!」とあるのは誤解を招く。本書は食料安保を「食料の安定供給」という極めて狭い意味で解釈しており、国際潮流を踏まえた消費者目線の食料安保には触れていない。信山社刊、1200円(税抜き)。

 奥原氏は農地制度については、同社から同時期に出版された学術選書「戦後農地制度史 ー農地改革から農地バンク法までー」で詳述している。こちらは500ページを超える大著で、研究者向け。1万2000円(税抜き)。

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