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「書評」 農村の足元を見直す  「農村における農的な暮らし再出発」(小林みずき)

2022.09.29

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 新型コロナの感染拡大で、大都市集中のリスクが認識され農村への回帰が見られる。しかしこの傾向が定着するかどうかは予断できない。一部で地価が上昇しているが、大都市への通勤園内の中核都市が中心だ。

 農村回帰の「質」もさまざまだ。移住して地域に溶け込む人がいる一方、ワーケーションやサテライトオフィス、別荘やリゾートマンションなど農村を一時的な退避場所として捉える人たちは、濃密な人間関係を嫌う。「農村回帰」と「農的な暮らし」は直結しないという認識が必要だ。

 本書はそもそも足元の農村内部で「農的な暮らし」が課題を抱えているという問題意識で書かれている。農林業センサス(2015年)によると、農村の1集落あたりの非農家数は92.5%を占めるという。農村に暮らしていても、農業との接点が希薄な住民が圧倒的に多いのだ。

 農村で「都市的な暮らし」をしている既存の多くの人たちを、「農的な暮らし」に引き込むことの方が先決ではないのか。著者の小林みずき信州大学学術研究院農学系助教は、農村社会において農業に関わろうとする人々の取り組みを「農活」、農活を支える新たな集合体を「農活集団」と定義し、長野県の3つの事例を紹介する。

 JCA研究ブックレットは日本協同組合連携機構(JCA)と筑波書房が監修・発行している。図司直也監修の本書はNo.30で、750円(税抜き)。