アグリサーチ

「書評」カリスマ創業者の生きざまを伝える  「『おいしい』を経済に変えた男たち」(加藤一隆)

2023.01.09

ツイート

「書評」カリスマ創業者の生きざまを伝える  「『おいしい』を経済に変えた男たち」(加藤一隆)の写真

 日本の外食は、価格、品質、清潔さ、従業員のサービスなど、あらゆる面で国際的にも最高水準だろう。比較的新しい産業で行政の規制が少なく、競争が激烈なことが背景にある。優勝劣敗、淘汰される企業も多い。

 そんな「戦国業界」でゼロからスタートして、頭角を現してきた創業者には、強烈な個性があふれ魅力的な人物が多い。その中から6人を厳選して、一般社団法人日本フードサービス協会の加藤一隆顧問が、秘話や業界知識も交えて紹介する。

 城山三郎の小説「外食王の飢え」のモデルにもなったロイヤルの江頭匡一氏、単品メニューで成功した吉野家の松田瑞穂氏、日本人向けのハンバーガーにこだわったモスの櫻田慧氏、低価格を徹底したサイゼリヤの正垣泰彦氏の4氏はよく知られている。

 少し意外な人選は、学生食堂の運営からスタートして豚カツの「さぼてん」を展開したグリーンハウスの田沼文蔵氏、地域密着で経営危機を乗り越えたハングリータイガーの井上修一氏だ。6人の共通点として著者の加藤顧問は「経営に対する強いこだわり」を挙げている。

 著者は1974年の同協会設立当初から事務局職員を務め、事務局長、常務理事、専務理事を歴任、30兆円産業となった外食産業を裏方として支えてきた業界の生き字引だ。群雄の中からこの6人を選び抜けるのは同氏だけだ。

 コロナ禍による営業制限や、資材・原料価格・人件費の高騰で苦境にある外食産業だが、敗戦や食料難、オイルショック、バブル経済の崩壊などを経験してきた創業者の生きざまを知れば、外食産業を支えるのは「人」だと改めて感じる。信念を持ち続ける人材がいる限り、日本の外食産業の可能性は衰えない。TAC出版発行、1760円(税込み)