「研究紹介」認知症ケアに稲作活用 新潟県上越市で成果 農林水産政策研究所
2021.12.26
各地で「農福連携」が広がり始めているが、語順通り、先に労働力不足など「農業」側の事情があり、福祉の視点が従属している印象を受ける。海外では「ケアファーム」という表現が一般的で、治療のために農場を活用するという発想だ。
日本でも草の根レベルではケアファームが実践されており、東京都健康長寿医療センター研究所の宇良千秋研究員は、農林水産政策研究所レビュー(No.104=21年11月)が掲載した「認知症と共によりよく生きる:認知症ケアの社会資源としての農園の可能性」で、新潟県上越市の川室記念病院を拠点とした稲作ケアプログラムの効果を報告している。
このプログラムには認知症をもつ高齢者8人が参加、田植えから稲刈りまでの約半年間、住民と協力してできるだけ機械を使わず昔ながらの手作業をしている。上越市はコメの大産地であるため、稲作になじみがある人ばかりで、認知症の人が病院の職員に作業を教えることもあるという。
認知症が進むと時間の感覚が曖昧になりがちだが、「そろそろ田植えの時期だ」と時間の感覚が回復し、適度な身体的な負荷でフレイル予防の効果も期待できる。社会参加や仲間意識の高まりで、通常のデイケアの参加者と比べて精神的健康度が有意に改善している。
宇良研究員は「認知症の人やその家族が、田園風景に囲まれて、顔なじみの仲間と農作業をしながら共に時間を過ごせるDementia-friendly Farms(認知症にやさしい農園)が日本にもたくさんできたら素敵だと思いませんか」と問い掛けている。
本論文とは別に、同じ号に所収されているブックレビューでは、同研究所の朝倉勇一郎コンサルティングフェローが「農福一体のソーシャルファーム~埼玉福興の取り組みから~」を紹介している。
埼玉福興グループは、めぐみネットでもルポしたソーシャルファーム(Social Firm)で、障害者、触法者、ニート、虐待被害者、高齢者ら幅広い人を受け入れている。著者の新井利昌氏が「受け入れる人を選ばない。選んでいては福祉ではない」と考えるからだ。
20数年間の活動を通じて新井氏が確信した「人間として大事なこと」とは、居場所、衣食住の生活、そして最後に働く幸せの3点だ。福祉の側から「農福連携連携」をとらえると、新たな可能性がみえてくる。ケアファームやソーシャルファームは農福連携とは似て非なるものだと理解できるだろう。