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「研究紹介」 「ハードの復興」から「人間の復興」へ   農林金融4月号から

2022.04.06

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 東日本大震災と福島第1原子力発電所の事故から11年が経過した。社会インフラの整備が進み、最新鋭の設備が導入されている漁港や農場もある。しかし、それでかつての地域の姿は取り戻せたのか。

 農林中金総合研究所の行友弥特任研究員は、同研究所の「農林金融」2022年4月号の「福島原発事故被災地における地域再生の新たな展開方向」で、今後の課題として「人間の復興」が必要だと提唱する。

 最新の設備の導入や経営規模の拡大など、「農業復興を支えるメニューは、相当にきめ細かく用意された」と評価する一方、「農業生産が効率化され『産業としての農業』の復興が進んだとしても、それが地域コミュニティーの再生につながらない別次元の問題もある」と指摘する。

 この問題意識は、本文で紹介されている「株式会社の代表」の「嘆き」の方が生々しく重い。「我々が営農を再開したのは、農業が復活すれば集落に住民が帰ってきて、昔のような地域の姿を取り戻せると思ったからだ。だが、現実は違っていた。復興とは、一体何なのだろう」と。

 著者が指摘するような「別次元の問題」ではなくて「本質的な問題」ではないのか。「復興とは何か」の問い掛けに対する著者の「答え」を明示してほしかった。否、筆者は既に「答え」を持っており、それは副題の「人間の復興」にも現れているし、本文の行間から十分に伝わってくるのだが、研究機関の「特任研究員」という立場が、表現を慎重にさせている印象を受ける。

 毎日新聞社で記者の経験がある著者は、ジャーナリストとしても第一人者だ。客観的で緻密なこの報告を踏まえた上で、生々しい事実と喜怒哀楽で埋め尽くされたルポルタージュを期待したい。