ふるさと納税の功罪 沼尾波子 東洋大学教授 連載「よんななエコノミー」
2025.01.06
年末を迎え、ふるさと納税の返礼品をめぐる「商戦」が活発化している。ふるさと納税のウェブサイトには「まだ間に合う」「お急ぎください」といった案内とともに、高級牛肉や海鮮などの写真が並び、カタログショッピングのような様相を呈している。
ふるさと納税は、個人が自治体に寄付することで所得税や住民税の手厚い控除を受けられる仕組みだ。実質負担額が2千円で、納税者は自ら寄付先を選び、応援したい自治体を支援することができる。この制度は地域を支える手段として期待されていた。
しかし、寄付額の3割を上限とする返礼品の普及により、制度の趣旨が変質してきた。当初は一部の自治体が提供していた返礼品だが、ウェブサイトで簡単に検索でき、クレジット決済などで支払いできる仕組みが広がると、ふるさと納税は一気に拡大、その規模は2023年度に1兆円を突破した。全国各地の特産品などを目当てに寄付する人が増え、さまざまな返礼品が注目を集めている。サービス事業者も増加し、24年12月には大手企業のアマゾンもふるさと納税の仲介事業に参入した。
制度の広がりにより、居住自治体への税収が他の自治体に流出するだけでなく、公共目的に使われるべき財源の一部が返礼品の費用として支出される事態が生じている。一方で、返礼品を主な収入源とする生産者も増え、返礼品は地域の雇用創出や産業振興に一定の効果をもたらしているという評価もある。
しかし大都市自治体への影響は深刻だ。東京23区では、ふるさと納税による24年度の特別区民税の減収額は933億円と見込まれている。本来の特別区民税収の1割に迫る規模である。
同様に個人市民税控除額が多い名古屋市、川崎市、京都市などの大都市でも、この状況を放置できないとして、国に制度の見直しを求めることと併せて、魅力的な返礼品を用意し、寄付金獲得に動き始めている。
本来、公共サービスに充てられるべき税財源が寄付者への返礼品に使われることや、高額所得者ほど多くの返礼品を得られる仕組みを考えると、制度見直しの議論が必要だろう。
自治体は、教育や福祉、ごみ収集、インフラ整備、コミュニティーづくりなど多岐にわたる公共サービスを提供している。それに対する応分の負担を担う住民税について、行き過ぎた寄付金控除の見直しとともに、住民の理解を促進していくことが課題となりそうだ。
とはいえ、地方では寄付金を活用した地域振興も進められている。先日、岩手県内の地域づくり団体から、地元市町村へのふるさと納税を通じて活動を支援してほしいと依頼された。活動の成果を返礼品として送るとのこと。悩ましい限りである。
(Kyodo Weekly・政経週報 2024年12月23日号掲載)
最新記事
-
めぐみネット閉鎖・移行のお知らせ
めぐみネットは開設以来、多くの皆さまにご利用いただきましたが、食農分野の情報を...
-
訪日消費、初の8兆円超 週間ニュースダイジェスト(1月12日~1月1...
▼稲作の新たな栽培方法に大賞 高校生ビジネスコンテスト(1月12日) 全国の...
-
地方創生2.0に期待すること 藤波匠 日本総合研究所調査部上席主任研...
9月の自民党総裁選で石破茂新首相が選出されて以来、地方創生が再び政治課題の俎上...
-
崖っぷち農業をめぐる与野党協議に注目 小視曽四郎 農政ジャーナリスト...
政府の2024年度補正予算案は、28年ぶりに衆院で野党の修正要求をのんで成立す...
-
豪でも鳥インフル猛威 供給不足で卵の購入制限続く
鳥インフルエンザの感染拡大などによる鶏卵不足から、オーストラリアではスーパーマ...
-
日本食店数3%増で過去最大 タイ 成長は鈍化、総合和食が1位に NN...
日本貿易振興機構(ジェトロ)バンコク事務所は1月8日、タイで営業する日本食レス...
-
食品輸出促進で稼ぐ力強化 週間ニュースダイジェスト(1月5日~1月1...
▼大間マグロに2億円 2番目高値、豊洲で初競り(1月5日) 東京都江東区の豊...
-
コメ交渉の実像伝えず 期待外れの外交文書 アグリラボ編集長コラム
新年を迎えてもコメ相場の高騰が続き、ついに関税を払ってでも米国産を輸入する業者...
-
予算膨張115兆円超え 25年度、歳出・税収最大 週間ニュースダイジ...
▼農業総産出額2年連続増 23年、コメや鶏卵価格上昇(12月24日) 農林水...
-
生きる力学べる港町 中川めぐみ ウオー代表取締役 連載「グリーン&...
「食を通して『生きる力』を学ぶ交流学習」。福井県小浜市の阿納(あの)という総人...