主食のコメ廃棄に歯止め フィリピン 大統領令準備、年280万人分相当 NNA
2024.12.25
フィリピン農業省は主食のコメの廃棄に歯止めをかける。年280万人分に相当することを問題視し、飲食店が1杯から半分に減らす「半ライス」の提供を可能にする大統領令の進言に向けて準備に入った。マルコス大統領が上院議員の時代に提出した法案と重なる。コメの生産量が世界7位でありながら供給が追い付かない現状からの脱却を見据える。(写真:地元住民が利用する市場にあるコメの販売所=16日、マニラ首都圏マカティ市、NNA撮影)
「毎年数百万人分のコメが無駄になっている。飲食店で半ライス提供の導入を検討し、責任ある消費を促す必要がある」。ローレル農業相は12月初め、政府を挙げてコメ廃棄の問題に取り組む姿勢を示した。
同省は飲食店で半ライスの販売を可能にするため、大統領令の草案策定を進めている。現時点では一部の自治体にとどまる同様の取り組みを全国規模に広げる狙いがある。下院で同様の法案が提出されていることを踏まえ、法制化も見据えている。
マルコス大統領は、大統領令に関して態度を明らかにしていない。ただ、上院議員だった2013年に半ライスの提供に関する法案を提出していた経緯があり、発令に積極的になる可能性がある。
■家庭より飲食店を問題視
フィリピン国内のコメ人気は根強い。消費量は世界で6番目に高く、日本の2倍近くに相当する。欧米系のファストフード店も国民の嗜好(しこう)に沿い、ライスメニューを展開している店舗が多い。
マカティ市の市場で働くビエンビニド・イバネスさん(28)は「1日3食欠かさずコメを食べている。パンや麺類よりも腹持ちが良いし、フィリピン人はとにかくコメが好きなんだ」と笑顔で話す。
コメを買いに商店を訪れた会社員のクリス・サルバドルさん(30)は「半ライスの選択肢があれば、ダイエットや節約の役に立つかもしれない」と期待した。一方で「健康意識の向上には野菜を食べる習慣を身に付けることが一番だと思う」と主張した。
農業省によると、19年のコメ廃棄量は25万5000トンと280万人分に相当する。廃棄量は年々減少しているが、国民の半数以上が低所得層に当たる同国では、無駄を最小限に抑える対策が急務になっている。特に飲食店での食べ残しが家庭からの廃棄を大幅に上回っていることを問題視している。
過食に起因する生活習慣病の予防効果も見込まれる。糖尿病を患う成人は14人に1人で、農業省は白米の食べ過ぎを一因としている。成人女性の4割強、男性の4割弱が肥満もしくは過体重(オーバーウエート)に当てはまる。
米農務省によると、フィリピンの23年のコメ生産量は世界7位の1200万トン超だった。日本を6割上回る。それでも供給が追い付かず、世界最大の輸入国になっている。結果としてコメ価格は変動しやすく、今年は約15年ぶりの高水準にまで悪化していた。
農業省の取り組みに成果が出るのかは見通せない。フィリピンホテル・飲食店協会のユージーン・ヤップ会長は「短期的に消費者の健康を改善することにつながるだろう。長期的には農家や飲食店の損失が起こりかねないため、政府は慎重に判断するべきだ」との見解を示した。
飲食業界の関係者が加盟するLTBフィリピン・シェフ協会のジェローム・バレンシア会長は「半ライスは食品廃棄や責任ある支出について効果が出る可能性があるものの、価格高騰の根底にある供給網や農家支援を改善しなければ持続的な解決策にはならない」と指摘した。(NNA)
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