防人の島で、外国を見る 連載「旅作家 小林希の島日和」
2024.11.25
日本の離島から唯一、定期船で海外へ渡航できるのは、国境の島である対馬だ。現在、島北部の比田勝(ひたかつ)港国際ターミナルと南部の厳原(いづはら)港国際ターミナルから韓国の釜山まで高速船が就航している。
約49・5キロ離れた対馬と釜山を結ぶ海の道は、古来、海上交通の重要ルートで、さまざまな人や文物が往来してきた。なにより朝鮮(韓国)との交易でもたらされる対馬の利益は莫大(ばくだい)なものだった。平地の少ない対馬の石高は、飛び地の領地だった肥前国(現佐賀県、長崎県)の1万石とあわせても2万石格だったが、幕府は対馬を重要な外交窓口として10万石格に遇したほどだ。
対馬初代藩主の宗義智(そう・よしとし)に悲劇が舞い込んだのは、1592年に始まった豊臣秀吉の朝鮮出兵だ。それまで朝鮮と良好な関係だった対馬は、「先陣を切って朝鮮を攻めよ」と命じられる。秀吉が亡くなると、今度は徳川家康に「朝鮮と国交を回復せよ」と命じられた。義智は、日本と国交を断絶していた朝鮮へ、命がけの外交を続け、1607年に朝鮮国王は日本へ使節団を派遣することにした。以降、1811年までに12回の朝鮮通信使が来日し、その間は両国に争いのない平和な時代が訪れた。
朝鮮出兵について、私は秀吉の貪欲な領土拡大の野心が招いたと考えていたが、ある日、書店で『信長 秀吉 家康はグローバリズムとどう戦ったのか』(著・三浦小太郎)という一冊を手に取った。それには、朝鮮出兵の引き金となったであろう、当時の諸外国の動きについて詳しく解説されていた。時は大航海時代で、ポルトガルやスペインがアジア諸国を次々と植民地にする中、宣教師が日本へ送り込まれ、植民地化を狙っていた。さらに、スペインが明(中国)を征服しようとする思惑があったという。それを知った秀吉は、国防のため、真っ先に明へ向かおうと動いたのではないか。
秀吉の真意は不明だが、学校の授業で教えられなかった一説に、当時の国際情勢を知れば「あり得るかも」と思った。対馬や、明の支配下にあった朝鮮王国は、グローバリズムの波に翻弄(ほんろう)されたともいえる。
天気の条件が良い日、対馬の比田勝からは釜山の街並みが見える。かつて対馬に集まった防人(さきもり)たちも見ただろうか。現代は世界中のニュースがリアルタイムで飛び込んでくる。でも、なかなか当事者意識を持つことは難しい。対馬に立つと、「グローバリズムとどう戦い、平和を守っていくのか考え続けよ」と、先人たちの声が聞こえる気がする。
(Kyodo Weekly・政経週報 2024年11月11日号掲載)
最新記事
-
食料産業に求められる人材とは 青山浩子 新潟食料農業大学准教授 連...
勤め先の大学が10月にオープンセミナーを開いた。講師は、農林漁業で優れた活躍をする個人や団体を表彰...
-
防人の島で、外国を見る 連載「旅作家 小林希の島日和」
日本の離島から唯一、定期船で海外へ渡航できるのは、国境の島である対馬だ。現在、島北部の比田勝(ひた...
-
兵庫のブランド肉3種セット販売
JA全農兵庫が運営する産地直送通販サイト「JAタウン」で、年末年始向けにブランド肉3種をセットにし...
-
第2次石破内閣発足 週間ニュースダイジェスト(11月10日~11月1...
▼第2次石破内閣発足 少数与党、年収の壁焦点 農相に江藤拓氏(11月11日) 第2次石破内閣が11...
-
誇れる「森林国」に 赤堀楠雄 材木ライター 連載「グリーン&ブルー...
しばらく前に父親は日本人、母親はドイツ人だという友人の女性から「ドイツ人は森が大好きだけど、日本人...
-
モー充実のミルク散歩 畑中三応子 食文化研究家 連載「口福の源」
10月の秋晴れの日、「ブラミルク@横浜」に参加した。歴史資料を調査し、発掘した地域に眠るミルク遺跡...
-
「キックボクシング」が女性や子どもにも広がる 菅沼栄一郎 ジャーナリ...
「カーン」。ゴングが鳴った。 サウスポーの星幸樹(こうき)(16)の左ストレートが伸び、左キックが...
-
米大統領選、トランプ氏圧勝 週間ニュースダイジェスト(11月3日~1...
▼2地域居住、官民で促進 連携強化へ新組織(11月4日) 都市と地方に生活拠点を持つ2地域居住を促...
-
Z世代の力 森下晶美 東洋大学国際観光学部教授 連載「よんななエ...
今年9月、東京ビッグサイトにおいて「ツーリズムEXPOジャパン2024」が開催された。ツーリズムE...
-
フードテック考 鬼頭弥生 農学博士 連載「口福の源」
持続可能な食料の生産・流通・消費を目指す方向性の中で、「フードテック」としてさまざまな技術が開発さ...