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「キックボクシング」が女性や子どもにも広がる  菅沼栄一郎 ジャーナリスト  連載「よんななエコノミー」

2024.11.18

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「キックボクシング」が女性や子どもにも広がる  菅沼栄一郎 ジャーナリスト  連載「よんななエコノミー」の写真

 「カーン」。ゴングが鳴った。

 サウスポーの星幸樹(こうき)(16)の左ストレートが伸び、左キックが相手の顔面に当たった。リングを囲んだ700人余りの観客から声が飛ぶ。

 新宿歌舞伎町のビルの7階で行われた注目の一戦。第1ラウンドが終わると、青コーナーに戻った幸樹選手を兄の憂雅(ゆうが)(23)と拓海(たくみ)(19)が囲んだ。3人ともプロのキックボクサーだ。(写真:星3兄弟。左から憂雅さん、幸樹さん、拓海さん。星拓海さん提供)

 この日は夕方5時過ぎから小学生同士の試合が始まり、女性の組み合わせも3組含めて9時近くまで、18試合が続いた。

 「格闘技にはあまり興味なかったんだけど」。というのが口ぐせの、末弟の幸樹は「そのくせ、めっぽう負けん気が強い」と所属する「IDEAL GYM」(東京都練馬区)の渡辺理想(ゆうと)会長(40)は言う。この日の判定勝ち(3ラウンド)で、プロデビュー以来4連勝(1KO)だ。ちなみに拓海は8戦5勝、憂雅は13戦10勝でグループのチャンピオンだ。星兄弟は最近、東京近辺でその名を知られるようになった。

 そんな3兄弟と偶然出会って、昭和時代の「沢村忠の真空飛び膝蹴り」しか知らなかった筆者は、「令和のキックボクシング」の探検をすることに。

 そもそも、キックボクシングは、1960年代の日本で、タイのムエタイに日本の空手、それにボクシングのルールを組み合わせて始まった。スポーツというよりテレビ局と提携した「エンタメ」の色彩が強く、関係の団体や協会はその後、分裂を繰り返して下火に。しかし、2000年代になって「魔裟斗(まさと)」人気で復活。最近は、女性や小学生にも裾野が広がった。

 女性の目的はダイエットばかりでない。5メートル×5メートルのリングに入ってパンチや蹴りをコーチのミットに打ち込めば、ストレス解消にもなる。殴り合いの試合はさすがに避ける人が多いが、最近は女優やモデルに広がって、女性キックボクサーが増えた。「昭和の沢村、平成の魔裟斗、令和の広瀬すず」そんな流れも見える。

 このジムでは130人の会員のうち女性が30人、小学生以下が15人。「この辺の地下鉄の駅を降りると、ジムを二つくらい見かけるようになりました」と渡辺会長は言う。学習塾よりキックのジムに子を通わせる親もじわりと増えた。「身体が強くなると、生活に自信が出てくる。あいさつの声も大きくなる」そうだ。

 3兄弟は4歳ごろから空手を始め、キックに転じて4年前にはこのジムへ。今はトレーナーとして、会員の指導役も務める。渡辺会長は、青森県八戸市の「実践空手道場」で育ち、高校の全日本3連覇後に上京。念願の世界大会に出場。その後、格闘技団体K︱1に転向した。

 ボクシングとは違って、統一リーグはなく、ファイトマネーにも各段の差がある。ただ、3人の目標は「強くなる」こと。「生きる強さにも通じる」

 拓海選手は11月下旬、ムエタイ・チャンピオンと初のタイトル戦に挑む。(敬称略)

(Kyodo Weekly・政経週報 2024年11月4日号掲載)

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