つくる

食料産業に求められる人材とは  青山浩子 新潟食料農業大学准教授  連載「グリーン&ブルー」

2024.11.25

ツイート

食料産業に求められる人材とは  青山浩子 新潟食料農業大学准教授  連載「グリーン&ブルー」の写真

 勤め先の大学が10月にオープンセミナーを開いた。講師は、農林漁業で優れた活躍をする個人や団体を表彰する「農林水産祭天皇杯」の女性活躍の部で内閣総理大臣賞を受賞(2023年)した「農プロデュース リッツ」の新谷梨恵子(あらや・りえこ)さん。新潟県小千谷(おぢや)市で農家レストランなどを営みながら、6次産業化を志す農家のサポートから農福連携まで活動領域は限りなく広い。農や食に関心のある若者などのインターンシップ受け入れにも熱心だ。講演後は、新谷さんと大学教員3人を交え「次世代の農と食を担う人材の育成」をテーマに話し合った。(写真:農プロデュース リッツのホームページより)

 教員たちの研究分野は農業生産、食品加工、外食と異なるが、人材の課題は「若手不在」「低い定着率」など共通だ。一方、どの教員も、農や食の仕事は「現場」があり、これこそが最強の教材と口をそろえた。「篤農家の姿を見て、農業について深く考えるようになった学生がいる」「現場での実習は座学以上に有効だ」といった意見が出た。外食産業は、長時間労働など「現場」の厳しさゆえに、若者の定着率の低さが深刻だが、「ICT化やロボット化が進む現場だからこそ、人にしかできない温もりのあるサービスの価値が見直される時代が来ている」と人が織りなす可能性にも触れた。現場には、今後の働き方のヒントもあると気付かされた。

 一方、食料産業で働く人を育てるには、育成する側の意識改革こそ重要だという指摘が多かった。教員から「人材育成という言葉すらなかった時代に教わってきた人間にとって、育成は難しい」という本音が出た。新谷さんからは「昭和を生きてきた世代は『昔はこうだった』と言いがちだがもう通じない。若い子たちには成功体験が大事。体験が自分のものになれば、本人もやる気が出る」。年間50人以上の若者を受け入れている新谷さんの実感がこもった言葉だ。

 ただ、若者に歩み寄ることと迎合は異なる。新谷さんも「若い子たちが好まない飲み会もうちではやります」と会場の笑いを誘った。狙いは「面倒だと思わず、人との関わりを恐れないでほしいから」とのこと。筆者も学生たちと接していて、ごく親しい友人とは仲が良いが、それ以外の学生との関わりが皆無で、限定的な交友関係を築いていると感じることが多い。「多様な人と関わり、人から『ありがとう』『うれしい』と言われれば、周囲の人に同じように接する。人がつないでいく世界の楽しさを伝えたい」という新谷さんの言葉は心に響いた。食料産業は、人の命を育む作業だが、同時に人を育む産業でもある。

(Kyodo Weekly・政経週報 2024年11月11日号掲載)

最新記事