豪の青果をもっと日本へ オースベジが日本バイヤー招致 NNAオーストラリア
2024.10.18
オーストラリアの青果業界が、日本との関係強化を図り輸出拡大を目指している。業界団体のオースベジとホート・イノベーションは10月7~11日、日本企業の青果バイヤーらをビクトリア州やクイーンズランド州などに招き、現地の農場や生産施設を視察するイベントを実施した。オーストラリア農林水産省(DAFF)も協力した。【ウェルス編集部】
今回の視察に参加したのは、◇イオントップバリュ(千葉)◇東京青果貿易株式会社(東京)◇株式会社ワタリ(東京)◇ヒロインターナショナル(東京)◇株式会社ローヤル(京都)◇株式会社クリエイト・オブ・アグリカルチャープラン(広島)の6社と、農畜産業振興機構と日本食農連携機構からの計9人だ。今回のプログラムは、新型コロナウイルスの流行以降、初めて日本の青果業界関係者に限定して行われたもので、ブドウやブルーベリー、かんきつ類などの9つの農場を訪問した。
(ブドウ農場を訪問し、輸入の可能性をさぐる参加者ら)
■ブドウの品種制限撤廃が契機
視察団が今回強い関心を示したのはブドウだ。背景には日本の農林水産省が今年7月に発表した、オーストラリア産ヨーロッパブドウの生果実の輸入に関し植物防疫法施行規則の一部などを改正し、品種の制限を撤廃したことがある。
オーストラリアは2022/23年度(22年7月―23年6月)に、約6,334トンのブドウを日本に輸出した。日本にとってチリに次ぐ第2位の輸出元だ。
オーストラリア産ブドウは日本市場で国内産とは異なる時期に供給されることや高い品質が評価され、14年の輸出開始以来、順調にシェアを拡大してきた。しかしこれまで日本向けに輸出できるブドウは3品種に限定されており、品種制限の撤廃が長く求められていた。
今回訪問したブドウ生産企業アール・ジェーエヌ・クュア・ヴィニヤードは、東南アジア各国に輸出している。同社農場では、栽培している16品種のブドウのうち、まだ日本に輸出がされていない2種類を視察した。強い関心を引いたのはマスカットの風味と強い甘みが特徴の緑種「オータムクリスプ」だ。今回の参加者の中には、輸出制限撤廃に向けて過去3年間、オーストラリア産のブドウの品種を調べてきたという人もおり、「国内産のブドウが品薄になるものの需要が高いクリスマスの時期にブドウを並べられることが重要だ。甘く、皮ごと食べられるオータムクリスプには大きな可能性がある」と話した。
日本人は甘みが強く、種がない品種を好むという。参加者たちは品種の特徴やすでに他国で人気がある品種について、活発に質問した。
(生産方法をめぐり話が弾む)
■高品質ブルーベリーに「驚き」
一方日本の輸入制限が続き、規制撤廃が待ち望まれているのがブルーベリーだ。
オーストラリア産ブルーベリーは、味の良さと品質の一貫性などから、1990年代後半から2000年代にかけて、日本から高く評価されていた。しかし、11年以降、果物生産に打撃を与えるミバエ(フルーツフライ)の侵入を防ぐため輸入が禁止され、現在は米国やチリなどが主な輸出国だ。参加者によれば、日本では気候変動などの影響で、この2年連続で国内供給が不安定になっていることから、多くの輸入業者がオーストラリアからの輸入再開を望んでいる。
視察団が訪れたのは、業界最大手のコスタが運営するコフスハーバーの農場だ。参加者は、品種改良や生産方法の研究を経て11年以降に商業化された2種類のブルーベリーを見学した。
最初に紹介されたのが、通常のブルーベリーの約2倍となる直径22ミリメートルの大きさを誇る品種「アラーナ」だ。粒を大きくするために、特別な鉢の中で生産される。コストはかかるものの、粒の大きさからプレミアム感があり、香港、シンガポールなどでプレミアムフルーツとして販売されている。参加者はその大きさに感心しながら、新鮮なブルーベリーを摘んで味を確かめ、品質の高さを確認した。
もう一種類の品種もコスタが自信を持つ「エターナ」で、糖度が高く、約40日間もの保存が可能なのが特徴だ。参加者は、保存や管理方法について興味深く質問していた。
長年ブルーベリーの輸入業務を担当してきたという日本の参加者は、「各国のブルーベリーを取り扱っているが、今日食べたブルーベリーが一番おいしかった。オーストラリア産は10年前とその美味しさは変わらない。サイズが大きくなっているのに、糖度と酸味のバランスが向上していて驚いた」と話した。
■知見共有のフォーラムも
(フォーラムでは研究中の最新技術も紹介された)
ただし今回視察した地域は、ミバエの発生が問題視される場合もある。コスタのマーケティング担当者は、「かつてのように輸出が再開されることを願っている。価格競争力よりも、果実の見た目や味、大きさなどの品質を向上させてきた。ミバエの問題には技術的な課題もあるが、ブドウの事例を学びながら業界全体で努力を続けていきたい」と話した。
最終日にはシドニーで青果生産における技術や知見を共有するフォーラムが開催され、業界関係者に加え、DAFFの職員や研究員なども参加し、ミバエを死滅させるための様々な技術が紹介された。
青果輸出を成長させるために設置され、70 人以上の科学者が協力して研究を行うプログラム、「Fresh and Secure Trade Alliance (FASTA)」の担当者は、放射性照射や低温処理などの技術を説明し、実用化に向けた実験が進んでいると述べた。
さらに、ミバエに耐性のある品種の育成状況や、ミバエが嫌う太陽光がより多く照射される栽培方法など最新の研究状況についても紹介され、参加者らは、官民一体となって実施されているオーストラリアの取り組みに熱心に耳を傾けていた。
《記者の目》
視察プログラムを通して、オーストラリア政府や青果業界から歓迎を受け、オーストラリア産果物の品質を再確認した日本の参加者だったが、輸入を簡単に増やせない事情があるという。参加者が、たびたび口にしていたのが「円安の影響」だ。ブルーベリー農場でも「品質が良いのはわかるが、価格面で消費者には受け入れてもらえないのではないか」といった声も多く聞かれた。
新型コロナの終息後、世界各国がインフレに苦しむ中、オーストラリアでは青果の価格が19パーセント上昇した。日本では輸入青果は国内産よりも価格が安いことが好まれる中、円安の影響も重なり、日本の輸入業者は厳しい状況に置かれている。
オーストラリアの生産者も、状況の変化を身近に感じている。バンダバーグのかんきつ類輸出企業は、日本にネイブルオレンジなどを輸出しているが、価格が購買に大きく影響しているという。担当者は「3等級ある果実のうち、これまで日本の業者は主に一等級のオレンジを輸入していたが、今では見た目がやや劣る二等級の注文が増えている」と述べた。
一方で、インフレが厳しい状況はオーストラリアの農家も同じだ。オースベジが野菜生産者に行った調査によれば、コスト高騰や販売価格の低迷、投資資金の不足などで、生産者の34%が今後1年以内に農業からの撤退を検討しているという。
そうした中、プログラムを終えた参加者は、今後の展望について希望を語った。「コロナウイルスの蔓延後、なかなかオーストラリアに行けない日々が続いた。だが、今回のように、直接生産者らと顔を合わせる機会が、互いの信頼感を確認し、関係強化につながることを実感した。オーストラリアの生産者も厳しい状況にある中、こうした信頼を基盤に、互いへの理解を示しながら、今後も共にビジネスをしていきたい」と話した。
来年3月には東京で開催される食品展示会フーデックスにオーストラリアの輸出業者や政府関係者も参加する予定だ。また、6月には、オーストラリアで日本を含む各国の輸入業者が参加する視察ツアーも計画されている。(本田歩)
(オセアニア農業専門誌ウェルス(Wealth) 10月18日号掲載)
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