伐採跡地での焼き畑で伝統野菜づくり 赤堀楠雄 林材ライター 連載「グリーン&ブルー」
2024.10.14

この夏、伝統的な焼き畑の作業を初めて見る機会があった。山形県鶴岡市の温海町(あつみまち)森林組合がスギを伐採した跡地の一部で毎年行っているもので、急傾斜の伐採跡地にスギの枝葉や刈り払った草木を敷き詰めて焼く。(写真:最上部から火を入れ、下方に誘導しながらじっくり焼く)
栽培するのは、この地に古くから伝わる伝統野菜「あつみかぶ」だ。あつみかぶは赤カブの一種で、組合では漬物材料などとして地元の業者や農協、個人などに販売している。収穫後にはスギの苗を植え、山づくりを再スタート。そうした林業経営の資金にカブの販売利益を充てるという農林複合の取り組みである。
焼き畑の実施面積は毎年1ヘクタールほど。それで10~15トンのあつみかぶが収穫できる。今年の現場は斜度が40度はあろうかというかなりの急傾斜地で、8月22日に火入れが行われた。
火をつけるのは上部からで、下方に誘導しながら時間をかけて全体をじっくり焼く。そうすることで害虫や雑草を防ぎ、灰も養分になって無農薬・無肥料での栽培が可能になる。
それが正当なやり方なのだと、組合からあつみかぶを仕入れて甘酢漬けの原料としている地元の老舗漬物店「本長」の本間光廣会長は話す。息子で社長の光太郎さんも「これが本物なんです」と力を込める。
施肥(せひ)をせずに育てたあつみかぶはしっかりと締まり、きめの細かいパリッと歯ごたえのいいカブになる。甘酢漬けは本長の看板商品の一つだ。
焼き畑は組合の職員が総出で行う。降り注ぐ太陽をさえぎるものがない炎天下の急傾斜地で火を誘導する彼らは汗びっしょりだ。朝からの作業は昼前に全面を焼き終えて一段落し、彼らはそばを流れる冷たい沢にざぶりと入って汗を流す。
この後、降雨の予報を見計らい、確実に発芽させるためにその何日か前に種をまく。45~50日ほどで収穫が始まり、収穫の途中からは植林作業も並行して行われる。12月末には降雪で植え付けができなくなるので、それまでに作業を終わらせるために、焼き畑の現場には雪の降り始めが比較的遅い、海岸近くの伐採跡地が選ばれる。
最近は伐採後の山づくりに手厚い補助金が利用できるようになり、資金面では余裕ができたが、組合では地域の伝統文化を守り、循環サイクルを実現する焼き畑を今後も続けていく方針だ。
(Kyodo Weekly・政経週報 2024年9月30日号掲載)
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