総裁候補、農政を語らず 結束する農林議員 アグリラボ編集長コラム
2024.09.22

事実上の次の首相を選ぶ自民党の総裁選が大詰めを迎えているが、農業に関する政策の議論は深まっていない。各候補は、農村を訪れてトラクターに乗ったり、特産品を試食して「おいしい」と連発したりして農業を大切にする姿勢をアピールしているが、具体的な政策には踏み込んでいない。
「農林水産業を魅力的にする」「食料安全保障は重要だ」「中山間で安心して暮らせるようにする」など当たり前の話だけで、これらを実現できなかった自民党の農政に対する反省もない。「食料自給率は100%を目指す」「農業の構造を根本的に変える」と目をひく公約を掲げても、それを実現する目新しい具体策は皆無だ。
目下のコメ不足や野菜類など食品の値上げに対する危機意識も薄く、コメ不足の対策として、「コメを増産し余剰分は輸出する」と主張する候補者も複数いる。しかし、これはコメの過剰生産対策として以前から提唱されてきた古典的な需給調整策だ。
なぜ自民党はこの政策を無視してきたのかを説明しなければ政策提言にならない。中期的にはコメさえ自給が難しくなるほど、生産力を衰退させたのは自民党の農業政策ではないか。「できることは何でもやる」では、何も言っていないのと同じだ。
農業に関わる現場の人たちが本当に求めているのは、農地と農家をどうやって維持するのかという切羽詰まった課題に対する信頼できる具体策だ。候補者の中には、農相、自民党の農林部会長や政策調査会会長の経験者(現職も)いるのに、農業政策をめぐる議論が深まらない。いったい、どうしたことか。
この素朴な疑問に答える一つの仮説は、自民党農林議員の結束力だ。総裁選を控えた8月21日の自民党農林合同会議で江藤拓・総合農林政策調査会長は「来年度の(農林関係)予算について構造を改革するにふさわしい予算を付けてくれることを、候補者に是非ご確認いただきたい」と、集まった農林議員に呼びかけた。予算の増額を認めるかどうかの「踏み絵」を候補者に求めるよう要請したのだ。
農林議員は、特定の候補を担ぎ上げるような強い影響力はないが、候補者たちを黙らせることはできる。候補者が乱立して票が分散するほど「農村票」は価値を増す。支持率が低い候補者ほど農村への依存を強め、農林議員の影響力が増す。この奇妙な力関係は、農業分野だけではない。既得権益を守る団体を支持層に持つ「族」と呼ばれる議員集団の発言力は、自民党の支持率が低下するほど、そして派閥の結束が弱まるほど、強まる。
自民党の派閥は、少なくとも見かけ上は弱体化したが、同党のもう一つの骨格である「族」は健在で一段と結束力を強めている。総裁選の前半で目をひいた資産課税や解雇規制の緩和も、あっさりトーンダウンさせた。総裁選の「真の勝者」は族議員だ。この仮説が正しいとすれば、総裁が代わっても自民党の体質は何も変わらない。(共同通信アグリラボ編集長 石井勇人)
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