男女平等トップの秘密 アイスランド 尾原佐和子 共同通信編集委員
2024.08.05
スイスのシンクタンク、世界経済フォーラム(WEF)が発表した2024年の「男女格差(ジェンダー・ギャップ)報告」で、日本が146カ国中118位と低迷する一方、アイスランドは15回連続で1位となった。背景には女性運動の強さや北欧諸国との連携があるとされる。国の規模は大きく違うが、家父長制の強さなど日本との共通点も多い。世界のトップを走る理由を探った。
男女格差報告は、WEFが世界各国の男女平等の達成度を順位付けし、毎年発表する。経済、教育、健康、政治の4分野で男女間の格差を分析して数値化。1に近づくほど平等度が高く、アイスランドは今回総合で0.935。経済は0.8台だが、それ以外はすべて0.9を超えている。一方で日本は0.663で、特に政治が0.118と極端に低い。順位も政治と経済の低さが目立つ。
アイスランドが男女平等に近づいている理由について、北欧の福祉政策に詳しい立命館大の大塚陽子教授はまず、伝統的な女性運動の強さを挙げる。アイスランドでは男女の賃金格差などが大きかった1975年に、全国的な女性のストライキを初めて実施。9割の女性が参加したとされ、女性活躍を後押しした。その後も終業時刻を前倒しして、賃金格差分を働かないという方法などでストライキが何度も行われてきた。
人口の少ない国で、国民の半分の女性がストをすれば経済を回すのは難しい。大塚教授は「女性の存在がいかに重要かを実際に示すことで圧力をかけ続けた」と指摘する。
北欧の福祉モデルの枠組みに入って他の国と緊密に情報交換してきたことも大きいという。97年に父親だけが2週間取得できる有給の育休制度を創設。その後拡充され、現在は母親が6カ月、父親が6カ月となった。その範囲内で6週間まで互いに融通しあえる。男性の取得率は8割を超え、給与補償も8割程度ある。
さらに女性活躍の契機になったのは2008年のリーマン・ショックに伴う国の経済危機だった。「女性トップの企業は堅実路線を取っていたこともあり、女性の力を見直そうという機運が生まれた」(大塚教授)からだ。過去50年間の約半分は女性が大統領や首相を務めたことも社会に大きな影響を与えた。企業役員の男女比を定めるクオータ制や罰則を伴う同一労働同一賃金の義務付けは女性首相によって導入された。
政治分野での女性活躍は国民の意識も変えた。ベネディクトソン首相は外相だった昨年「女性が1980年から16年間も大統領を務めたことが社会のロールモデルとして大きな役割を果たした」と指摘。「手本となる人がいて、もともと働く女性が多く、仕事もある。人口が少ないことや経済の発展が女性の活躍を広げたのではないか」と分析する。
ただ、アイスランドが〝パラダイス〟というわけではない。外向きのジェンダー平等が進む一方で、賃金格差はまだ残る。ドメスティックバイオレンス(DV)や性暴力も社会問題化。背景には家父長制や性別役割意識の強さがある。女性が自立すると男性の地位が下がったように感じ、暴力につながる緊張感が生まれるとの見方もある。
こうした現状に反対するため、今も女性たちは声を上げ続けている。昨年10月24日には全国規模のストがあった。厳しく冷え込んだ首都レイキャビクの集会には7万~10万人が参加。女性人口の約半分が集まった計算だ。若者から高齢者まで年代はさまざま。あふれんばかりの人波の中、「暴力反対」などと書かれたピンクや赤のカラフルなプラカードがあちこちで掲げられた。
広場に設けられたステージから「男女の収入差は21%。女性の40%が一生のうち一度はジェンダーに基づく暴力を受ける。これを平等と呼ぶのか」と問いかけると「ノー」の大合唱。性別を決めないノンバイナリー、外国人や障害のある女性への差別反対も繰り返しアピールした。
この日、多くの女性が働く保育園や小学校は休みになった。店舗にも休業の張り紙が目立ち、市役所では子連れの男性らが数人出勤しているだけだった。男性のダグル・レイキャビク市長は「ストを前向きに捉えているが、今日は重要な会議はできない」。当時の女性首相も公務を取りやめ、女性なしに社会が回らないことがあらためて示された。
集会ではこれまでの先輩女性たちの行動が誇らしいという若い世代の声が多く聞かれた。約50年前の最初のストに参加し、国会議員を経て、昨年の集会を企画した70代のクリスティンさんは「大切なのはあきらめずに行動し続け、次の世代にバトンを渡すこと」と話した。
地震が多く、温泉が豊富。島国でもともと外国人が少なく、性別役割や家父長制の意識が強い。保育園不足、家庭内での女性の負担の大きさといった問題も含め、日本との共通点は驚くほど多い。それでも世界一が続くアイスランドに対し、最下位グループからなかなか浮上できない日本。その違いは立場を超えて連帯できる女性たちの団結力、声を上げ続ける行動力にあるのかもしれない。
(Kyodo Weekly・政経週報 2024年7月22日号掲載)
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