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日本の中の海外  森下晶美 東洋大学国際観光学部教授   連載「よんななエコノミー」

2024.05.06

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日本の中の海外  森下晶美 東洋大学国際観光学部教授   連載「よんななエコノミー」の写真

 コロナ禍の旅行制限の影響もあって4年ぶりに成田空港を訪れた。今回は旅行のためではなく、空港施設の視察をさせていただいたのだが、旅行者や施設などがずいぶん様変わりしているのに驚いた。

 まず、空港にいる旅行者は圧倒的に外国人。数字上でインバウンド旅行者数はコロナ禍前の水準に回復したものの、日本人の海外旅行はふるわないということは十分に承知していたつもりだったが、まさに百聞は一見にしかず、アジア系を中心にほとんどがインバウンドの観光旅行者のようだ。そのせいか、空港で働くスタッフも外国人が増えた。チェックイン業務などはもとより、飲食、物販などでもたくさんの外国人スタッフが働いている。以前の空港はどこか気取った雰囲気もあったが、良くも悪くもグローバル化した感じがする。

 そうなると当然だが、空港内の商業施設も外国人好みのものが増えてくる。今回、最も目を引かれたのが、昨年9月にオープンした「JAPAN FOOD HALL」という高級フードコートで、第2ターミナルの出国審査後のエリア(同エリアは日本ではない)にある。出店している10店舗はすべて、六本木や丸の内にある新しい商業ビルのようなおしゃれな雰囲気だ。外国人にとっては日本滞在の最後にもう一度おいしい食が楽しめるということで、食をウリとする日本の玄関である国際空港の戦略としてはまさに的を射たものといえる。 (写真:成田空港のフードコート「JAPAN FOOD HALL」、筆者提供)

 何より驚いたのは、その価格と繁盛ぶりだ。出国手続き後のフロアは、以前であれば軽食程度の店しかなかったが、ここには銀座や日本橋、京都にある有名店が並んでいて、ラーメン2800円、牛カツ膳4950円、伊勢海老天定食6500円、パフェ3300円という価格帯。正直、現在の日本人には簡単に手が出ないが、値段が高いだけでなく味のほうもしっかりハイクオリティーらしい。旅行情報サイト「4 Travel」の口コミでフードコート全体の料理・味の評価は5ポイント中、堂々の4.5を獲得している。

 さらに驚くのはどの店も繫盛していて、客のほとんどが外国人であることだ。現在の日本経済の縮図を見せつけられた感がある。昨年、ハワイを訪れた時に現地の物価が日本の2~3倍に感じたが、外国人の彼らにとってはまさにその反対。自国の2分の1~3分の1の感覚なら普通の外食価格だし、それでハイクオリティーな日本の食事ができるとあれば繁盛しているのもうなずける。

 そうか、出国審査後だからここはもう日本じゃなかったっけ。とはいえ、空港でおいしい食事もできない貧しい日本人になっていくのか、不安がよぎる。

(Kyodo Weekly・政経週報 2024年4月22日号掲載)

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