「ブラタモリ」が教えてくれたこと 藤波匠 日本総合研究所調査部上席主任研究員 連載「よんななエコノミー」
2024.04.29
NHKの人気番組「ブラタモリ」のレギュラー放送が、3月の鹿児島・指宿(いぶすき)を取り上げた回をもって終了となりました。まだまだタモリさんにはブラブラしてもらいたい場所がたくさんありましたし、これから番組を誘致しようと考えていた地域も多かったのではないかと思います。
番組の熱狂的なファンも多かったとみえ、「ブラタモリ」でネット検索すると、番組の足跡をたどるサイトが数多く出てきます。まさに惜しまれつつのお別れということなのでしょう。
ブラタモリが秀逸だった点は、地球誕生から今日までの悠久の歴史の中で形作られてきた土地の記憶が、いまを生きる私たちの暮らしに影響を与え続けているということを実感させてくれたことです。山や谷、河川、岩石、断層、地震、火山にひもづいた大地の成り立ちと人の暮らしが、いまも密接に関係しているということです。
例えば、農業などの土地利用は、大地の成り立ちが大きく影響しています。河川が形作る扇状地は、扇頂部に近いエリアでは土中に礫(れき)が多く水はけが良すぎるため、米作には向かず、乾燥地でも育ちやすい小麦や果樹が栽培されてきました。逆に扇状地の末端に近いエリアは地下水が湧き出し、良質な米がとれます。山梨県の甲府盆地で、山を背負った傾斜地にブドウが植えられ、ワイン生産が古くから盛んであった一方、盆地の中央部が水田になっているのはこうした理由なのです。香川県がうどん県になったのも、讃岐平野が扇状地で、瀬戸内気候の雨の少なさと相まって、米作りに向いていなかったことが小麦生産を育んだ必然なのです。
地震や火山、断層についても、ブラタモリは多くの知見を与えてくれました。千葉県の房総半島は、もともと隆起によって形成された土地で、その大半が以前は海の底でした。地下深くで、太平洋プレートやフィリピン海プレートが北米プレートの下に沈み込む動きによって押し上げられてできた地形です。関東大震災や元禄時代の大地震の際に、一気に数メートルも隆起したことが番組でも取り上げられていました。房総半島南部の海岸線では、崖が連続的に生じる海岸段丘という特徴的な地形がみられます。
1月1日に発生した能登半島地震でも、一部地域では地盤が4メートルも隆起しました。そもそも能登は、今回だけではなく、長い歴史の中で数え切れないほど繰り返されてきた地盤の隆起によって形作られた半島なのです。
日本列島は、その成り立ちにおいて、複数のプレートが複雑にぶつかり合うエネルギーにより、高い山や陸地が形成されてきました。前出の甲府盆地は、もともとプレートの動きによって深い谷が形成されていたところに、八ケ岳の山体崩壊で膨大な量の土砂が流れ込んだことなどにより谷が埋まり、現在の盆地構造になったことが、ブラタモリで紹介されました。
ブラタモリは、私たちの豊かな食文化はもとより、地震や噴火などの自然災害も、地中深くの複雑なプレートの動きによってもたらされているということを教えてくれる番組でした。いつの日か、特番で戻ってきてくれることを期待します。
(Kyodo Weekly・政経週報 2024年4月15日号掲載)
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