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ご存じですか、TCH  安武郁子 食育実践ジャーナリスト  連載「口福の源」

2024.04.22

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ご存じですか、TCH  安武郁子 食育実践ジャーナリスト  連載「口福の源」の写真

 軽く口を閉じた時、上下の歯は当たっていますか? 当たっていないですか? どうでしょうか?

 このシンプルなチェックは、皆さんの口の健康、全身の健康に関わる重要なサインとなります。

 当たっている方は、要注意です。生活習慣の改善が必要な状態といえます。

 上下の歯はいつも噛(か)み合っているのが普通だと思われている方も多いかもしれません。しかし、最適な状態は、上下の歯列間に1~3ミリの隙間がある状態です。これを、安静空隙(あんせいくうげき)といいます。1日に上下の歯が生理的(咀嚼(そしゃく)時、嚥下(えんげ)時、発音時など)に触れる「瞬間的」な時間は、平均20分以内といわれています。

 そして、上下の歯が1日20分以上接触している状態(癖)のことを歯列接触癖(TCH=Tooth Contact Habit)といいます。

 頑張る様子を表す表現に「歯を食いしばる」という慣用句もあるくらい、頑張っている皆さんは日常的に、上下の歯を噛み締めていることはないでしょうか? 歯の噛み締めや食いしばりは、歯と顎の関節や筋肉に大きな負担をかけます。しかし、この強い噛み合わせの力よりも、このTCHによる弱くても長時間の歯の接触が、さまざまな問題を引き起こすといわれています。パソコン、スマートフォンなどの長時間利用や、何かに集中している時にTCHは起こりやすいといわれ、日常的に上下の歯が接触している人が増えている傾向にあります。

 たかが数ミリの隙間、気にする必要はないように思えますが、影響は想像以上に大きく、TCHは、顎関節症や歯周組織の病気(知覚過敏、歯の破折、歯周病など)につながり、歯を失う原因にもなりかねません。

 TCHの原因は、環境、生活、気候、体調の変化などによるストレスや緊張などが原因であると考えられています。特に新年度を迎えたこの時期は、これらの変化が起こる時期です。生活環境が変化した方も多く、知覚過敏(歯が染みる)や奥歯で噛むと痛いという症状の方が多くなるようです。思い当たる方もいるかもしれませんね。

 しかし、この癖は改善できる可能性が十分にあります。まずは、この癖があることを自覚すること。唇を閉じて、上下の歯を離し、顔の筋肉の力を抜いて、鼻呼吸を常に意識してみましょう。パソコンやスマホなどの利用時は姿勢を意識し、環境を整えることも大切です。口の健康は全身の健康につながっています。口福寿命を延ばすためにも、もう一度そっと口を閉じてチェックしてみましょう。

(Kyodo Weekly・政経週報 2024年4月8日号掲載)

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