「四方よし」の観光 アドベンチャーツーリズム 森下晶美 東洋大学国際観光学部教授 連載「よんななエコノミー」
2024.01.22

高付加価値な観光として、現在注目されているものの一つにアドベンチャーツーリズム(AT)がある。ATとは「自然とのふれあい」「文化交流」「フィジカルなアクティビティー」のうち二つ以上の要素を含む観光で、簡単に言えば、アクティビティーを通じて地域の自然や文化の本質に触れる観光のことだ。例えば、湖でカヌーを行う時、アクティビティーや景色を楽しむのはもちろん、それと共に湖の成り立ちやそこに生息する生物について知り、その湖で取れた魚を使った郷土料理を味わうなど、その土地の本来の姿を包括的に楽しんでいくものだ。
近年、世界的にも体験型観光が人気となっているが、中でも「したことのない体験」「ウエルネス」「自己変革」などが志向のキーワードとなっており、ATはそれを具現化する観光形態の一つといえる。
ATを好む旅行者の特徴としては、①高学歴で意識が高く所得水準も高い ②地域を深く楽しむことを望むため滞在日数が長い ③自然や文化を理解するための現地ガイドを求める ④価値を感じる体験コンテンツには惜しまず費用をかけるーなどがある。欧米の富裕層を中心に旅行者は増えており、市場規模は欧米の9カ国で約1670万人ともいわれている。
特に注目すべきは環境負荷に対する経済効果で、例えば、ある地域で1万ドルの消費を生むためにはクルーズ船旅行者であれば100人必要だが、AT旅行者なら4人で済むという試算がある。また、ATにおいては地域の「自然」「文化」「アクティビティー」の質が重要となるのだが、わが国は自然資源が豊富で、地域それぞれ特有の文化があることから実現の可能性も高い。インバウンド数の増加とともにオーバーツーリズム問題が浮上しているが、少ない人数で消費額が高く環境意識も高いAT旅行者は、受け入れの地域にとっては願ってもない顧客層なのである。
さらに、ATでは「旅行者」「事業者」「地域」「環境」がハッピーな「四方よし」の観光を実現できるのも期待される点だ。「旅行者」にとっては見るだけの観光で終わらず地域の自然や文化を深く楽しむことができる、「事業者」においては1人当たりの消費額が高い、「地域」には旅行者が文化を理解してくれることで誇りが生まれる。そして「環境」に負荷をかけないアクティビティーによってその理解と保護につながる、というわけだ。
従来、観光では「旅行者」と「事業者」の双方にメリットがあることがよしとされてきたが、オーバーツーリズムを目の当たりにした今、「四方よし」という観光の在り方がますます重要になってきている。
(Kyodo Weekly・政経週報 2024年1月8日号掲載)
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