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しっかり噛んで年越しを  安武郁子 食育実践ジャーナリスト  連載「口福の源」

2024.01.01

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しっかり噛んで年越しを  安武郁子 食育実践ジャーナリスト  連載「口福の源」の写真

 年末年始は、外食の機会が増え、食べ過ぎや飲み過ぎが気になる時期ですね。今回は、漢字の「乱」をテーマに、食育、良食の大切さについてお話ししたいと思います。(画像:©食育推進団体イートライトジャパン)

 小学校で学んだ「消化・吸収のプロセス」を覚えていますか? 口は第一の消化器官です。この消化器官の機能をあなたは使って食べているでしょうか?

 人間の体は全てつながっています。たとえば、歯が1本虫歯になったり、痛みを感じたりしただけでも、その影響は体全体に及びます。

 食べ方に乱れが生じると、私たちの体にどのような影響があるでしょうか。まず、噛(か)まないで食べることで唾液の分泌が不足し、炭水化物を分解する消化酵素アミラーゼが分泌されません。

 では、噛まずに流し食べたご飯やパン、麺類といった炭水化物は、どこで分解されているのでしょうか? 炭水化物を分解するアミラーゼを分泌する臓器は膵臓(すいぞう)です。私たちが噛んで食べていれば、口腔内で分解されているはずの炭水化物ですが、噛まないことで膵臓に負担がかかっているのではないでしょうか。

 炭水化物は、脳や全身のエネルギーのもとになる重要な栄養素です。欠かすことはできません。この炭水化物だけでなく、体に良い食べ物を選んでも、十分に咀嚼(そしゃく)されなかった食べ物は胃腸に余分な負担をかけます。そして消化不良が起こり、栄養がきちんと吸収されなくなります。

 良い食べ物も大切ですが、良い食べ方(良食)も大切です。噛むほどに唾液が分泌されます。これは一人一人が実践するしかありません。誰も代わってあげられません。

 わが国の膵がん(膵臓から発生した悪性の腫瘍)は近年増加傾向にあり、毎年3万人以上の方が膵がんで亡くなっています。膵がんの死亡数はこの30年で8倍以上に増加しています。原因は明言されていませんが、食べ方の乱れに比例しているように思いませんか。

 「乱」。反乱、混乱、酒乱、狂乱、散乱。不安を感じさせる文字です。食べ方の乱れは、心身の健康だけでなく、家庭、教育、人間関係、社会全体にまで乱れをもたらします。食事は私たちの生活において欠かせない要素であり、食べ方は、私たち自身と周囲の人々の生活にまで大きな影響を及ぼしています。

 この時期こそ、流し食べをせずに、一口一口を意識して味わって食べてみましょう。消化が良くなり、食べ過ぎを防ぐことができます。食べ方に気をつけることは、健康な生活への第一歩です。幸福は口福から。年末年始、良食を実践し、心身ともに健康な新年を迎えましょう。

(Kyodo Weekly・政経週報 2023年12月18日号掲載)

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