タイで中華な「麻辣火鍋」ブーム 海底撈がけん引、回転火鍋も増加 NNA
2023.12.20
日本食人気の高いタイで、中国のピリ辛しゃぶしゃぶ「麻辣(マーラー)火鍋」がブームになっている。中国の大手火鍋チェーン「海底撈」が2019年にタイに進出したことで、麻辣火鍋の認知度が上昇。独自の「おもてなし」や癖になる「旨辛スープ」でタイ人消費者の心をつかみ、9店まで店舗を増やした。首都バンコクの街中では、鍋の具材が回転ずしのようにベルトコンベヤーに乗せられて回る「回転麻辣火鍋」も急増している。(写真上:海底撈では定番の本場四川風「麻辣スープ」=左上=や季節限定「赤ワインスープ」=左下=など、好みに合わせて最大4種類のスープベースが選べる=12月1日、タイ・バンコク、NNA撮影)
麻辣は、ピリリとしびれる中国原産のサンショウ「花椒」にトウガラシを合わせた中国四川省発祥の味付けだ。
タイのメディア・SNS(交流サイト)データ分析会社dataxet:Infoquestは「タイではまず麻辣串焼き(BBQ)が流行し、その後に麻辣火鍋の人気が高まった」と分析する。同社によると、8月31日~9月11日に「X(旧ツイッター)」や「インスタグラム」などのSNSでやりとりされた麻辣というワードを含むメッセージは3700通、麻辣というワードを含む情報へのアクセス回数は31万5600回に上った。内訳は83%が「マーラー・ホットポット(麻辣火鍋)」、残り17%が「マーラーBBQ」だった。
■海底撈「ブーム実感」
タイの麻辣火鍋ブームの火付け役は、19年にタイ1号店を開業した海底撈だ。タイの地域マネジャーを務める詹永丞(Jhan Yung Cheng)氏はNNAの取材に対し「タイでの麻辣火鍋ブーム到来を実感している」と語り、「当社がけん引して生まれたトレンドだ」と自負する。
海底撈は1994年に中国四川省で操業。6月末時点で中華圏(香港、台湾、マカオ含む)で1382店、中華圏以外で115店を展開する。進出から4年たったタイでは現在バンコク、北部チェンマイ、南部プーケットで計9店を運営。バンコクの大型商業施設「セントラル・ワールド」と「セントラル・ラマ9」に入居する店舗は、1時間待ちもめずらしくないほどの盛況ぶりだ。
(平日でも順番待ちが生じる海底撈。待ち時間に無料で提供されるドリンクやスナック、ネイルサービスも人気の秘密だ=4日、タイ・バンコク、NNA撮影)
■ローカル化やサービスで独自性
詹氏は、メニューのローカリゼーションとサービス面でのイノベーションが「海外での成功の秘訣だ」と語る。
進出する各国で、SNSなどを通じてマーケティング調査を実施し、現地の消費者に合わせてメニューにマイナーチェンジを加える。例えばタイでは、四川風麻辣やトマトといった本国で人気のスープベースに加え、トムヤム、ナムニャオ(タイ北部で親しまれるオイリーで辛みのあるスープ)、ジャオホン(東北地方のハーブを効かせた辛みのあるスープ)のスープベースを用意している。
海底撈は1卓(大鍋1個)につき1~4種類のスープベースを選べる仕組み。会社員のタイ人女性客(32)はNNAに対し「麻辣火鍋は、大好きな麻辣串焼きとしゃぶしゃぶが一体となった夢のような食べ物だ」と熱弁する。一方、大学生のタイ人男性客(21)は「辛い鍋のファンではないが、海底撈ではトムヤムスープやトマトスープを選ぶこともできるので気に入っている」と話す。
順番待ちの際に提供する各種サービスや、従業員が客の面前で麺を伸ばして鍋に投入するパフォーマンス「カンフー麺」といった独自のサービスも強みだ。順番待ちの間は無料のスナック、飲料、アイスクリーム、ネイルサービスを提供。タイの一部店舗ではマッサージチェアも設置している。前出の女性客は「海底撈は1時間待ちでも退屈しない。無料でネイルもできて一石二鳥だ」と笑顔を見せた。
(麺が空を舞う「カンフー麺」のパフォーマンス。歓声を上げ、写真や動画を撮影する客が多い=4日、タイ・バンコク、NNA撮影)
■東南アジア全体で勢力拡大
海底撈の海外事業(中華圏以外)を統括する香港上場のスーパー・ハイ・インターナショナル(特海国際)の今年1~6月の売上高は、前年同期比31.77%増の3億2390万米ドル(約483億3000万円)だった。東南アジアは1億8600万米ドルで全体の57%を占め、同社にとって中華圏以外で最大の市場となっている。1~6月の東南アジア70店舗の利用者数は、延べ890万人を数えた。
海底撈は22年7月~23年6月に東南アジアで9店を開業。今後さらに店舗を増やす考えだ。タイではバンコクのセントラル・ワールド店とセントラル・ラマ9店の混雑が続いていることから、待ち時間を減らすために同2店舗近くでの新規開業を検討している。
■形態に広がり、地場も便乗
バンコクをはじめ、タイの主要都市では回転麻辣火鍋も急増している。一人用の小鍋でおのおのが麻辣などからスープベースを選び、ベルトコンベヤーで回ってくる肉や野菜、麺などの中から好みの具材を手に取り楽しむスタイルだ。
(鍋の具材がベルトコンベヤーに乗って流れる「回転麻辣火鍋」の店も急増中=11月、タイ・バンコク、NNA撮影)
バンコクでは麻辣火鍋の軽食バージョン「麻辣トウ(トウ=湯の下に火)」を出す店も増加中。こちらはあらかじめ具材を選び、好みの辛さの麻辣スープを使って調理してもらうスープ料理だ。日本ではトウの漢字を「湯」に置き換えて「麻辣湯」の名称で親しまれている。
回転麻辣火鍋や麻辣トウは、300バーツ(約1270円)以下から500バーツ程度と値段が手ごろである点も魅力だとみられる。
麻辣ブームに便乗する地場企業も現れ始めた。しゃぶしゃぶ鍋店「ゆずスキ」など10ブランドの外食チェーンを展開する地場ソムパースック(ゆずグループ)は8月26日、バンコク中心部サイアムで麻辣火鍋店「DA ZHENG(大鄭)」を開業。このほか、地場ピザチェーン「ザ・ピザ・カンパニー」で麻辣ピザ、焼き肉チェーン「BBQプラザ」が麻辣ソース焼き肉、日本風の洋食を提供する店が麻辣カレーソースオムライスを期間限定でそれぞれ提供するなど、ブームは中華の枠を超えて広がりつつある。(NNA Jaruwit SU-NGAM)
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